睡魔が吹き飛んだ。クロカリは、息を呑み、小さく驚嘆の声を発した。
「あり得ない……このシーン、こんな場面、あるはずがない!」
その時、クロカリの脳裏に浮かんだのは、子どものころ、曽祖母、操(みさお)から聞いた一節だった。
『こんなに甘い三浦西瓜……でもね、戦時中は〝贅沢品種〟と呼ばれて、食べるどころか、栽培すら許されなかったのよ』
……にもかかわらず、戦時中に撮影されたとされるこの記録動画では灯台守が官舎の畑で堂々と西瓜を栽培し、誇らしげにそれをカメラに見せつけ、舌鼓を打っているのである。
六
翌々日、クロカリは、その疑問を晴らすべく、南国風のパーム椰子が茂る、M役場に愛車を走らせた。
椰子の影に沿ってバイクを停めたクロカリ。そこに息を切らして走り寄ってきたのは、背の高い、年のころ不惑過ぎの男だった。若草色のユニホームには、M役場の西瓜と大根をあしらったかわいいロゴが刺繍されていた。
「せ、清家さんですよね。暑いなか、よくぞ、いらっしゃいました」
その男は、そう言うと、首にかかる名刺のストラップを差し出して、早口で自己紹介した。
「わたくし、この町役場の広報係長、田苗長年(たなえちょうねん)と申します。実は、清家さん、覚えていらっしゃいますか? あなたとは郷土史のことで、これまで何度かお電話で……」
田苗は、まるで、喉元に笛が入っているような甲高い声でそう言うと、突然、ぎこちなくクロカリに〝拳〟を突き出した。
「あ、あの時の、田苗さんですね!」
クロカリは、田苗の拳が握手代わりだと気づき、戸惑いながら、拳を田苗に突き出した。
挨拶が終わると、田苗は暗い廊下を通って、クロカリを広い応接室に案内した。
「この庁舎が建てられたのは昭和四年。運よく空襲も逃れ、県の文化財指定も受けています」
田苗は自慢げにそう言うと「資料を取りに行く」と告げて、そそくさとその場を去っていった。
妙に深くて柔らかいソファーに身を沈めたクロカリは、高い天井を見上げた。そこには、夏の空気をゆっくりとかき混ぜる扇風機が回転していて、ニス塗りの出窓には懐かしい球根栽培。透明ガラスのなかで球根が涼しげに浮かび、ヒアシンスの花が、そこに香り立った。
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