「そうですね、悩んでいるということではないかもしれません。自分が気づいた自分の姿に暗澹としてしまったという感じです。私は一旦職場に入れば、決してそれを表に出さず、仕事に邁進します。周りの人には精神力が強い人間のように映っているらしく、『メンタル強いねー』とよく言われるくらいです。
実は、しばらくの間は、社長に、こいつは死のうとしていないか、などと心配されていたようですが」
「ほお、それはまた大変な! そんな場合、大概は終始仕事が手につかないってことになりそうですな」
「いえ、そんな性格だから、なおさら私はこの年になるまで自分の暗部に気づかず日々を送ってしまいました。そして何年も経ってから、お前はなんて奴だったのだ、と暗澹としてしまったのです」
それから彼は自身のことを少し語った。
彼は三十歳代前半には、数十人の部下を持ち、毎日二、三時間の睡眠で働いたそうだ。
しかし、慌てることはない。私は彼が開いていく、彼自身の心の扉をじっと見詰めておればよいことだと思った。
いつの間にか、太陽が雲に隠れ、吹く風が冷たくなってきた。
「すっかり引き留めてしまいました。申し訳ありません。ウォーキングの邪魔をしてしまいました」
「いえいえ、こんな私でよければぜひ話し相手になってください。こちらこそ、そうお願いします。ウォーキングなんぞ、また明日から始めればよいのですよ」
「ありがとうございます。それではあまり構えずにやります。中山さんも、何かきっかけになるように何でも私に話題を投げかけてください。例えば本のこと、時事のことでも何でも大丈夫です。今度連絡しますので、よろしくお願いします」
「私たちはご近所さん同士なのだから、いつでも声をかけてください」
「ありがとうございます」
二人で土手を上がり、彼が去って行くのを見送り、私も家まで元来た道を戻り始めた。
「自分の姿を知って、人から離れて、仕事以外の付き合いもせず、か」
私はすっかり雲が広がった空を見上げながら、深そうな彼の心の闇を思い呟いた。
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