高岡の父も、似た運命を背負っていた。満州での従軍ののち、日本の劣勢によって中国南部へ下り、さらに、ネグロス島に移送されたという。そこは、満州以上に、苛烈な激戦地でアメリカ軍やフィリピンのゲリラ兵、日本兵を含む50万人近い兵士が死亡したという。
戦地では、銃弾などの兵器や食料、薬などが不足し、突然の奇襲に応戦し相手を殺傷しなければ自分が殺されてしまう戦争の悲惨さで精神を患う兵士も多数出ていた。
高岡の父は、幸いにも生き残り、無事、日本へ帰国したが、二度と元の自分には戻れない心の傷を抱えてしまった。
きっかけもなく突然泣き喚き、大声で独り言をわめき散らすことがある。時には、数日間無口のまま、一日中家に引きこもり、一言も話さないこともあった。
実際の戦争を知らない幸三には、人の性格を変えてしまうほど過酷で悲惨な体験と苦しみをまったく理解できなかった。
高岡の父は夜、仕事から帰り、酒が入ると、さらに大声を荒げて喚き散らし、母が止めようとしても止まらず、夜中に響く大声は、近所の家々にも及んでいた。
戦争が高岡の父をまるで別人に変えてしまったのだ。戦争がどんな理由で始まり、戦場で何が起こっていたのか……。中学生の幸三には想像すら及ばない。
高岡は、そんなとき、母とともに家の外に出て、父が寝入るまで何もせず、ただじっと耐えて黙って過ごしているのだという。
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