意を決して、インターホンを押そうと手を伸ばしたとき、

「また来たのね」

後ろからかけられる声があった。

ドキリとして恐る恐る振り返ると、そこにはこの前と同じ老婆が立っていた。

「あ、この前はどうも」

「こちらこそ。暑いでしょ? 中入って」

老婆は僕の脇をすり抜け、門を開くと、鍵を取り出し扉を開けた。

「今日はいるのよ。だから……」

「いるんですか? 遥香が」

「ああ、いや。遥香はいないんだけどね。うちの子が」

「ああ」

遥香の母親が家にいるということだろう。きっと、また修羅場になる。一応、そういう想定はしてきたつもりだ。

「それでもいいのかい?」

「はい。遥香が帰ってくるまで待ちます」

「そうかい」

老婆は、やはり遥香の祖母だったのだ。彼女は少し寂しい表情を見せた後、僕を中へ入るよう促した。

「帰ったよ。由紀子(ゆきこ)、お客さん」

「はーい」

奥の部屋から一人の女性の声が聞こえる。間違いなく、遥香の母親だ。由紀子という名前であることは、遠い昔に遥香から聞いたことがある。

「あ」

「どうも」

僕を見て固まっている彼女に、僕は丁寧にお辞儀をした。

次回更新は6月16日(火)、11時の予定です。

 

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