帰宅後、少し疲れた。
外出は体力より神経を使う。
感染回避、食事制限、時間管理。
だが楽しかった。楽しさは、免疫に効く気がする。
科学的根拠は知らないが、体感はある。
夜、母が言った。
「今日、顔よかった」
「丸さですか?」
「色」
顔色。それは重要指標だ。
数値以外のデータ。
闘病は数字で管理する。
でも人は、表情でも回復する。
これは記録に残りにくいが、確かにある。
ログに書いた。
【今日は外出成功】
【減塩外食クリア】
【疲労 中】
【満足 高】
満足度の項目を追加した。
数値だけだと、心が置いていかれる。継続は力なり、ただし心必須。
寝る前、薬を飲む。水で流す。
毎日の儀式。
私は思う。
この1錠は、依存ではなく連携だ。
体と医療との連携。
カレンダーに丸。
チーム運用、良好。
闘病は、孤独じゃない方が強い。
孤独は、自分で自分の心を押しつぶす。
第十一部:検査数値より先に折れるもの
安定期という言葉は、思っているより不安定だ。
数値が落ち着き、薬が減り、生活が回り始めた頃――人は一度、気持ちでつまずく。
体より先に、心が疲れる。これは説明書にはあまり書いていない副作用だ。
その日は、何も悪くなかった。
血圧よし。体重よし。尿も問題なし。
睡眠もそこそこ。基準点は越えた。
なのに、朝から重かった。
理由がない不調は、いちばん扱いにくい。
散歩に出た。いつものコース。
公園を1周して、川沿いを歩く。心拍数を上げすぎない速度。歌えないが会話できるペース。主治医基準はまだ守っている。
だが今日は、楽しくない。
「同じ道、飽きた」
口に出た。以前なら景色だったものが、今日は背景だった。
ベンチに座った。
同年代くらいの人がジョギングしていく。
全力で走っている。
私は見送る。
「いいな」