祖先の足音がする マーサ・グレアム(1894-1991)
グレアムは1894年5月11日、38歳の開業医(精神科)、ジョージ・グリーンフィールド・グレアムと、その15歳年下の妻、ジェーンの長女としてペンシルベニアのアレゲニーに生まれ、神話学者のジョゼフ・キャンベルとの出会い、ユングを知ると記している。
このことから、ユング派の精神分析との影響関係を指摘することは可能であろうと指摘されている。
「私の背後にはいつも祖先の足音がして、私を後押ししてくる。
新作のダンスを創作するとき、祖先の身振りが私を通じて流れ出てくるのである。良きにつけ悪しきにつけ、それは祖先のものである。
人は自分の体が、何かほかのものになるような境地に達し、過去の様々な文化の世界へ、言葉ではほとんど言い表せない思考へと到達することになる。私はダンスをつくりながらそれを言葉で表すことはしない」(『血の記憶』筒井宏一訳、新書館、1992年)
ユング派の知識に触れたグレアムは祖先の身振りを意識したと述べている。
ギリシャ神話を素材に『心の洞窟』(1946)、『夜の旅』(1947)、『クリュタイメストラ』(1958)等の名作を残した。
グレアムのもう一つの功績は呼吸に伴う身体の動きを観察し、「コントラクション」「リリース」という技法を完成させたことである。
まず、上下の歯をかみ合わせ、その隙間からできるだけ強く息を吐いてみる。そうすれば肩と骨盤と背中に動きが生じるコントラクション、息を吸い込んだとき背中が伸び、身体の中心を感じるリリースからなる。
繰り返し練習することによって身体の中心を捉え、身体の上下運動や他の動きとの連動が可能になる。
又、下腹部を繰り返し強く動かすことによる性的な快感も得られるという。
ダンカンにおける、波の動きに触発され、胸の中心に集まった感情のエネルギーが動きに放射されること、グレアムにおけるコントラクションとリリースによる呼吸に伴う下腹部の収縮と弛緩の連続は20世紀のモダンダンス技法に大きな役割を果たした。
同時期、ドイツでは客観的表現を排して内面の主観的な表現を重んじた運動がベルリンで花開き、各地の前衛芸術に影響を与えた。
その中で、メリー・ウイグマンはドイツ表現主義舞踊の旗手として有名である。