一時になっていたが、眠れなかった。
オープン式のリビングと薔子の寝部屋は、間に通路らしきものがあったが、扉一枚だった。知らない男女が一つ屋根の下にいる落ち着かなさもさることながら、彼らのただならぬ様子に心が騒がされていた。
少しウトウトすると、ねぇ、ねぇ、と呼ぶ女の声に薔子は起こされた。
自分が呼ばれているものと思い、ドアを開けると、耀子が市村の寝ているソファーの前にひざまずいているのが目に入った。
見てはならぬ感じですぐにドアを閉めかけたが、「コウさん」という女の切なげな声のねちこさを、嫌だ、と薔子の純潔は強く嫌悪して、彼女に非難の目を投げかけていた。
応えない市村に、耀子は諦めて立ち上がった。
雨が小降りになり、ゴタゴタでカーテンを閉め忘れた窓から外灯の光も流れ込んで、耀子の姿ははす向きにくっきりしたシルエットだ。ガウンは着ていず、ネグリジェだけなのが分かった。
その姿にも盗み見の恥ずかしさが自覚され、ドアノブを引きかけた薔子は、次の瞬間、ギョっとして手も息も止めた。耀子はネグリジェの前を開き、裸になろうとしていた。
市村が起き上がり、いきなり耀子の頰を打った。あっと声を上げて、女の影がくずおれた。
「いい加減にしてくれ。無理心中をしようなんて女は願い下げだ」
右と左に華々しく傷ついた高級車の惨状が薔子の目に浮かんだ。
谷側にハンドルを切ったのは耀子なのだろう。
「本気で殺そうとしたんじゃないわ。あなたがこれっきりにしようなんて言うから、ついかっとなって――」
「なお悪いじゃないか。僕は君を騙したわけじゃないぞ。お互い、納得づくの付き合いだったはずだ。誘ったのは君じゃなかったか」
低く押し殺した声に、怒りが燃えている。薔子の前ではこらえていたものを、ここに至って爆発させた感じだった。女のすすり泣きが夜の空気を震わせていた。
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