奥から手櫛で髪のほつれを直しながら現れた、生活に疲弊した感のある奥様と名刺交換して、勧められるままに簡易応接の椅子に着座すると、おっちゃんは切り出した。

「社員の羽島さんは東京の大学を卒業されて直ぐに大阪に来られたばっかりやで、関西は右も左もわからんさかい、ようしてやってや」

年端のいかない裕三におっちゃんが敬語を使ってくれたのは、社員を連れてきて会社も本腰をいれてキャンペーンに臨んでいるという彼なりのデモンストレーションなのであろう。

「そやねんか。東京からでっか、道理で垢ぬけてはるやんな」

赤面しながらも裕三は「いえ、とんでもございません。両親は九州出身ですし、たまたまご縁を頂きまして東京に居をかまえていただけでして、東京の人間も大多数は地方出身者の寄せ集めでございます。その証拠に盆や暮れは帰省ラッシュで東京は空っぽになります」。

「ほんまやな。この辺もなぜだか沖縄出身のかたがぎょうさんいてはりますわ」と奥様、おっちゃんも「東京もんも関西人もないで~狭い日本そんな急いでどこ行くんやちゅうことやな」とガハハと前歯の欠けた顔で豪快に笑った。

「一服や」と数名のパートの女性陣に号令のように短く声をかけると、やがて首の手拭いで額の汗を拭きながら、「中小企業のおっさんはしぶといし、がめついで」という長田課長の下馬評を裏切らなさそうな脂ぎった中年の経営者が現れた。

竹内のおっちゃんは自分でハイライトに火をつけると、箱の底を指でトントンと弾かせて吸口を宙に浮かせると、経営者と裕三にも勧めた。

裕三からせしめた煙草のせいで気を大きくしたのか、先ほどインスタントコーヒーの粉をけちって泥水のような薄いコーヒーを飲ませた人物と同一人物かと思えるほどの大盤振る舞いである。

煙草の煙を満足げに吐き出しながら、竹内のおっちゃんは本題をきりだした。

「一年に一回はシゲちゃん(契約者)の顔を見んとあかんから建物はそのままの一年契約で、家財だけ五年の積立でどうでっしゃろ。銀行の定期預金並みの利息が付くし、何より燃えても銀行は何もしてくれへんで」と裕三のセールストークをそのままに、老獪さをつけ加えて頼み込んだ。

「シゲちゃん」は「おっちゃんの顔なんて見らんでえーわ」と悪態をつきながらもしばし世間話をして、最後には「ほならそれであんじょうよろしゅう、お願いしまっせ」と提案通り契約してくれた。

 

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