はしがき

人や場所または作品、あらゆる対象との邂逅は偶然なのか、必然なのか。

禅問答のようであるが、後から振り返りその対象との邂逅を起因に、結果に対して一本の道筋が見えてくるという運命論者的視点に立脚すれば、邂逅は必然と定義づけることができる。

時として邂逅により悪い結末に導かれる場合もあるが、その場合あたりまえであるが同じ視点にたっても積極的に邂逅を必然とするのには躊躇する。

邂逅が偶然か必然かは表裏一体といえるが、あくまでもそれ(邂逅)によって導かれる結果がテストされるのであろう。

主人公裕三は、その意味では大いに必然というべき女性税理士との邂逅により税理士という職業に魅せられて、半ば衝動的にせっかく新卒入社した会社を辞してしまう。

昭和末期とはいえ、当時はまだ終身雇用という雇用形態が絶対的価値観をもって社会から全面的に支持されていた時代である。一年も経たずに離職するとは正気の沙汰ではなかった。

本書はそんな裕三が、親の経済的援助もないまま時には道を外しそうになりながらも、目標に向かって紆余曲折し葛藤する様子を笑いや悲哀を織りなしながら描く物語である。

本来の「無頼」の意味に「経済的に誰にも頼らない意味」も表題に掛けている。

物語を通じて昭和の時代の許容性や寛容性に加えて清濁併せ吞むような独特な昭和の空気感、息吹を感じていただければ望外の喜びである。

昭和から平成、令和と時代は変遷を遂げる中「昭和は遠くなりにけり」と万感の思いで懐古する今、描く原動力となったのは著者の一貫した昭和へのノスタルジーであるとする予断をもって読み進めていただければという願望は著者の我儘であろうか。