「やっぱり旅っていいよね」

明里さんは鮭の切り身を頬張りながら、窓の外の風景を眺めている。

「僕にとってはただ地元に帰るだけで、旅行って感じはしないけどな」

「ダメだよ。ちゃんと楽しまないと」

「今日の目的は楽しむことじゃないから」

「それでも、心から楽しみにしておかないと。遥香さんに会ったときも、そんな暗い顔でいるつもり?」

「暗い顔なんか―」

言いかけたタイミングで、電車がトンネルに入る。窓に映る自分の顔は、たしかになにか悪い事実に直面したわけでもないのに、すでに絶望が滲んでいる。いつからこんな顔をしていたのだろうか。

「笑顔で遥香さんに会うためにも、まずは楽しむ! そのための、美味しいご飯だよ」

今度はきんぴらごぼうを口にして、甘ったるい声を上げている。それもそうかもしれない。また心の中で礼を言うと、僕も里芋にかじりついた。

なんの計画も立てていない僕らは、当然電車の中で暇になる。明里さんはその時間も退屈しないようにと、トランプでゲームを始めた。明里さんがどこまで本心でそうしてくれているのかわからないが、今は彼女の優しさに甘えるとしよう。

そうして、駅弁を食べ、トランプで遊び、音楽を一緒に聴いたりしていたら、あっという間に地元に着いた。

「うわぁ! 空気が澄んでいて、気持ちいいね」

「空気と水は綺麗なんだよ。どこの田舎だってそう」

「自分の地元をそんなふうに言わないの」

相変わらず夏の日差しが強い今日、電車を降りると、すぐにセミの大合唱に包まれた。明里さんは辺りを見回しながら、感嘆の声を上げているが、田舎なのだから当然虫も多い。都会では見られないようなサイズの大きいものもいる。この後の彼女がどうなってしまうのか、それを考えたら少しだけわくわくした。