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「確かにそういえばこちらでも、あれはユニークなプレゼンと言われている。だがコンセプトと建築の提案と図面表現とが、極めてうまく一致した案だと絶賛されている」
「“現代美術館それは癒しのインターフェース”というコンセプトだそうだ。ところで、話は変わるがいいか?」
「おお……何だ?」
「今日午前中のことだが、セント・ジョンズ・ウッドの近くで面白いものを手に入れた。お前、ピエトロ・フェラーラという画家を知らないか?」
「フェラーラ? ピエトロ・フェラーラ? うーん、ちょっと記憶にないが、なぜだ?」
「三十歳くらいで死んでしまった天才画家だそうだ。そうか、お前に心当たりがないと言われると、やはりインチキだったか?」
宗像はいかにも無念そうに眉をひそめ、午前中の出来事をかいつまんで話した。
「おまえ、なぜその絵を持ってこなかったのか?」
心地は不満そうに宗像をなじった。宗像はセント・ジョンズ・ウッド駅で、それを忘れたことに気がついたが、ホテルまで戻って、また出直すには時間がなかった。言葉で正確に伝わるかどうかは分からないがと前置きをし、例の絵について手短に解説を始めた。
「そうか? もしその話が事実とすれば、その絵は一九六〇年代前後の、それも非常に特殊な画家の作品だな。お前も知っての通り、俺は前衛とか抽象とか言われるジャンルの現代美術が専門だからな。もっとも、最近、インスタレーションや映像なども加わったが、どちらかと言えば、まあ新しい時代の担当さ。だから、六十年代頃の、それも具象をベースにしたような画家ではな。おまけに作品の数そのものが極めて少ないとなると、なかなか分からんよ」
「どこかで調べる方法はないか?」
いつものようにこだわる宗像の態度が、何を求めているかを良く知る心地は、仕方ないなという顔つきをしながら言った。