その客は身なりが良く青のデニムサファリジャケットに同じ青の綿素材のダンガリーシャツ、カーキストレッチスラックスを身に着け黒のコンフォートシューズを履いていた。紳士のカジュアルスタイルが雑誌の一面から抜け出したような格好をして、この人にしか似合わないと言っていいほど着こなしていた。
自然というよりも服装全体がその人になじんで見える。髪は白髪交じりであったが若く見えた。その客は内ポケットからキャビンの箱を取り出し、煙草を吸ってもいいか英良に訊ねた。英良は構わないことを告げた。客はシルバーのジッポライターを内ポケットから取り出し慣れた手つきで煙草に火をつける。英良はその仕草からほどほどヘビースモーカーだと思った。
既に英良はこの客が入店した時に喫煙者であることが分かった。煙草を吸わない英良は煙草の匂いには至極敏感で部屋の出入り、隣部屋の喫煙者の煙の匂いにも気が付くほどだった。
「それでは遠慮なく」その客は遠慮がちに言った。
「仕事でこちらへいらしたのですか?」英良は訊ねた。
「ええ、仕事と言いますか、とある人を探しています。それも見つからず徒労に終わりそうですが」煙を吐き苦笑しながら答えた。
「誰をお探しですか?」英良は率直に聞いた。
「一人の日本人女性です」躊躇なく客は答える。
「失礼ですが、あなたは探偵さんとかですか? クライアントに依頼を受けて探しているとか?」英良は訊いた。
「いいえ、違います。私はそのような資格は持っていません」客は苦笑いした。「ダンスの興行を行っていまして、何と言いますか人材発掘とでも説明したらよろしいですか」補足して説明した。
試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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