英良は再び言霊を放った。
「ううっ、止めろ、くくっううっ……」苦悶の表情が見えるようだ。
「誰だ?」英良は詰問した。
「古より光を闇で覆うもの。お前を女に会わせるわけにはいかぬ。光の子の誕生を拒む。この世を闇で覆う」声は続く。「ソロモンの生まれ変わりよ、古の英雄には消えてもらおう。光や栄華などは現世には無に等しい。光よ闇に凌駕され永遠に閉ざされよ」
英良は黙っていた。
「我は闇の使い手。おまえの周囲に古代の闇を巡らせよう。我は悪魔なり。光の前に立ちはだかり光射すものを断じて許さん」
英良は目を覚ました。時計を見ると午前六時五分前。手足と首の筋肉に恐る恐る神経を集中させた。やっぱりか。全身の筋肉が筋トレを行った後のように痛む。冷蔵庫からミネラルウォーターを出し一口飲んだ。大きく深呼吸し布団の上に座った。もう一度深呼吸し、数分その状態で座っていると自然と楽になった。
英良は沢山汗をかこうと風呂に入った。窓からは人の足音が聞こえてくる。静寂の中で耳を澄ませると二階の通路で会話をしている声もかすかに聞こえてくるものだ。また今日もいつもと同じ一日が始まる。
山間から涼しい風が吹いてくる。日差しはまだそれほどきつく感じないが車内には陽光が差し込みエアコンを使いたくなる気候だった。英良は車のエアコンを微弱につけて街中を走っていた。
夜になると昼間の暖かさが嘘のように冷え込んでくる。英良は行きつけのスナックに入った。十分ほど飲んでいると一人の五十代らしい客が入って来て英良が座っていたカウンターの一つ空けた左の席についた。