びしょ濡れになった二人を見てもおぼちゃんは、
「涼しくていいや」
と、笑いながら乗せてくれた。
夜遅くびちゃびちゃに全身が濡れて、ほおけた二人が帰ってきたのを見て、
「どうしたのじゃ、何があった」
晴明が言ったが、
「万事終わりました。お祓いをお願いします」
と焦点のあわない目で葛の葉が言って、二人はふらふら歩いてそのまま寝てしまった。
次の日正気に戻った朱雀に、
「しかし、その人は寂しくはないのでしょうか?」
朝飯を食べながら話を聞いた白虎が言ったが、
「いや、一人ではないのよ」
また、遠くに行ってしまった目で朱雀が言った。
葛の葉も浮遊した目で動きが止まり、空中を、今はない降り積もる水晶を見ていた。
二人はしたたり落ちる水晶の中にいた。
猫は旅をする
その日の朝の光は柔らかく、風は優しかった。
朝早く目覚め、今日こそ新しい一歩を踏み出す時だと直感的に思い、まとめておいた小さい荷物を持って誰にも気づかれないように外に出た。
まだ三分咲きの桜の下でいったん足を止めて、今までいた古い屋敷に一礼して猫は旅に出た。
「先生」
声をかけられて振り向くと思いつめた顔の小学生くらいの男の子が立っていた。
「君は私の患者だったかな」
と言うと少年は下を向いて、
「覚えていないのは仕方ないんだ」
と自分に言い聞かせるように言った。
そしてくるりときびすを返し走り去って消えた。
少しだけ罪の意識がわいたのを感じたのが、それは自分にはなじみのない感情だった。
先生は近くの病院の外科医で、評判の名医だった。
なぜだか体の中の異質な部分がわかるので躊躇なくメスを入れる。周りは称賛したがそれだけだった。
私生活では口下手で付き合うような友人もおらず、ずっと一人だった。
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