そして通りすぎる熱。濃厚な生命力をはらんだ空気。

(ああ、この部屋にはたくさんの人が来ている)朱雀が思った時、

「さっさと済ませてしまいましょうね」

言いながら姫は、部屋の前に立ち、手をかざすとバンという大きな音とともに扉が開き、男がカンバスから目を上げ、また、キラキラと雲母のかけらが降ってきた。朱雀の横を見えない熱がたくさん通り過ぎ、男の体がどんどん小さくなっていく。

その時あふれ出た姫の思考を読んでしまった葛の葉は、その容赦のない静かな残忍さと冷たい意志の力に思わずあとずさりした。

(あなたは引きずられて深いところに落ちていく、あなたの体、伸びた両腕、まがった背骨、うつろなまなざし、あなたは本当は死んでいて、死の中で自分は死んでいるとわかっているはずだから、私とおいで)

その言葉に呼ばれるように雲母は大きくなり、水晶のようになり、それが溶けて部屋に真っ青な流れを作った。その小さな川に姫は進み、しだいに小さくなって服の中からさっきまで人間だった黒っぽい魚を取りだした。

もうさっきまでの激情は感じられず、その目は風のない日の湖の水面のようにおだやかだった。

「静かにおし」

となだめるように言いながら、長い爪で素早く目をえぐってしまうと魚はゆっくりと沈んでいった。

川はのびて黒く、底が知れず天に続いていて、

「では、これでよござんすね」

とだけ言って、来た時と同じように水晶の階段を上がって行ってしまった。

その後をたくさんの熱源が通り過ぎ、葛の葉も朱雀も何をしていいかわからずたたずみ、その髪と肩にキラキラと水晶が降り積もった。