【前回の記事を読む】外傷はないが眼球がない青年の死体。その周りには膨大な数の絵があったが、絵のモデルと思われる少女たちは…
水晶怪談
「ああ、そうかでも人間が見ることができるのには限界がある、それでおかしくなったのか? あの絵はどうなった」
「いろんな美術館に展示されているぞ、ルーブルにもあるらしい」
葛の葉が言って、
「あんな気持ちの悪いもの」
朱雀がつぶやいた。
「人間っていうのは暗い愉悦と言うものが好きみたいね」
まだ気配がしていて、締め切った部屋がある。その中で一心に絵を描いている者がいる。
「あれか」
葛の葉がうなずいて、隣の部屋に入り窓を開け、ぶつぶつと一人何か唱え始めた。
部屋は埃だらけだったが方角的には正しい。
朱雀はハンカチを敷いて座り、太刀をはさんで壁によりかかった。
呪文めいたつぶやきが進んでいくにつれ、部屋は少しずつきれいになってきたようだ。
「朱雀」
ゆすられて目が覚めた。
いつの間にか眠り込んでしまったらしい。
「いらしたぞ」
見ると月影に人の姿が浮き上がっていて、その人が一歩踏みだすたびに一筋の水がさっと走って階段を作り、そのたびに雲母(うんも)のかけらがキラキラとこぼれ落ち、片側に垂らした長い髪、桔梗のついた紫のなまめかしい襦袢(じゅばん)を押さえて部屋に入ってきた。
背はあまり高くないが色はあまりにも白く、頬はあまりにも完璧な曲線を描き、弓型の眉は張り付けたようで、唇は蝋でできたようだったが、ただ絶対に生きている人間の顔ではなかった。
それでも凄く綺麗で、見ていると一種の陶酔を覚えた。
「お久しぶりでござんすね」
その顔が笑顔らしきものを浮かべて言った。
この人がどうやって戦うのか朱雀は思い出せなくなったがそのとたん後ろの髪がふわりと舞い上がるのがわかった。