水晶怪談

「あ、こいつ憑依されやがった」

いきなり朱雀(すざく)が言った。

さっきまで気の毒になるほど真剣な表情をしていた、葛(くず)の葉(は)の目から大量の涙が流れだしたと思ったらゆらゆら体を揺らし、

「なんであの人が死ななければならなかったのじゃ、晴明(せいめい)様が死ねばよかったのに」

とわめいた。

何を言うかおまえは、と言おうとした晴明より早く朱雀が、

「何やってんだ、この馬鹿」

言いながら平手打ちを放ったが、葛の葉の体が大きくかしいだのでかがみこんでいた晴明に当たり、晴明がひっくり返って、

「馬鹿はおまえだろう」

鼻血を垂らしながら起き上がってきて九字を切った。

すっきりと正気に戻った葛の葉に、

「おまえ憑依されていたぞ。誰にだ」

朱雀が言った。

「わからないけど何か懐かしい人に会った気がして」

葛の葉が穏やかな喜びに浸っているような表情で言った。

「まったくしっかりしろ」

晴明が言うと、

「あれ」と言った後、晴明を突き飛ばして、

「きゃあ、ちかん親父」

言いながら晴明の頬をひっぱたいて鼻血が飛び散る床に泣き崩れた。

「今度は被害者に憑依されやがったようですね。もうこんな役立たずは売り飛ばしたらどうですか?」

冷静に朱雀が言って、

「売れるものなら売ってもいいが売れないだろう、こんなのじゃ。鼻血垂れてるし」

晴明が言った。

「それにしてもなぜあんなものが今ごろまた現れたのでしょう?」

「わからんが、以前にもおまえが行ったろう、葛の葉とおまえが行け」

まだ床に倒れて泣いている葛の葉を無視して言った。