「何ですか、何かの仕返しですか」
「違う、あの人の力を借りなければいかん、男は嫌いだろう。朧車(おぼろぐるま)を使っていいから」
「ああ、水鏡の姫様ですか?」
陰陽師(おんみょうじ)には十二神蒋(じゅうにしんしょう)といわれる味方がいる。
その人はその一人で、静かでたおやかな姫だがずっと山奥の湖のほとりの家で一人で暮らしている。
家じゅうが透き通る湖の続きのような廊下に寝そべって、あの人にしか見えない何かを見ている。
そんな状態で何百年も暮らして正気を保っていることが狂気の沙汰だが、その姿はとても美しくもある。
「わかりました。すぐ出かけます」
なぜか朱雀がうきうきした調子で言って、印を切って晴明が葛の葉を正気に戻した。
事の起こりは平凡な青年の死で、近くの下宿に引っ越して今はもうない学校に通い、絵を学んでいたが、そのうち学校にも来なくなり連絡が取れなくなった。
心配した両親が訪ねた時には部屋に倒れていて周りに膨大な数の絵が残っていた。それらは天才と言われる域に達していて、今でもあちこちの美術館に飾られている。
異様なのは青年に外傷はないが眼球がなかった。
人間の世界では事故だったのか、自殺なのか、冷酷な殺人だったのかわからず処理されたが、その湖に絵のモデルと思われる少女たちの死体がいくつかあった。
その始末を手伝ってくれたのが姫で晴明様が供養をした。その建物がまた現れたらしい。
二人とも機嫌のいい笑みを浮かべて地下にある車庫に行く。奥の方に朧車が止まっている。
「おぼちゃん久しぶり元気だった?」