「そ、そうなんですか」

「この望遠鏡の主鏡は、直径十八インチ(約四十六センチ)ある。集光力に至っては、人間の目の四千倍を超える。集光力とは、望遠鏡の性能を表す能力の一つだ。これが大きいほど暗い天体を観察するのに有利になる」

論点が次第にぼやけてきても口を挟んだりせず、黙って相手のご高説を拝聴した。話の腰を折って不機嫌になられたら厄介だと思ったから。

「鏡面を反射して集められた光は、斜鏡――ほれ、そこについとる小さいやつだ。それに当たって直角に進路を変える。で、接眼レンズを介してワシらの目で像を結ぶ、というわけだ」

「はぁ、なるほど」

「民間でこれほどのものを持つ者は、そうそうおらんぞ」

まさか、自慢したかったわけじゃないだろうが、ここは素直に感心しておいた方が良さそうだ。わたしは、多少演技を交えつつ、目を丸くして何度も頷いてみせた。

「すごいですね。あなたは、大学の教授かなにかですか。こんなに大きな望遠鏡をご自宅に持っていらっしゃるなんて」

口が寒くなるようなお世辞だったが、相手が気を悪くした様子はなかった。

「ワシが? 大学の先生?」

おじいさんはひとくさり笑うと、真顔に戻って説明を始めた。目に表れていた険は、もうすっかり消えている。

「そんなに偉い先生が、昼日中からステテコなんぞはいとるかね。ばか言っちゃいかん。叱られるぞ。ワシがこんなに立派な設備を持つには、ちゃんとした理由があるんだ」

また笑った。どうにも調子が狂う。𠮟られに来たはずなのに、この場の雰囲気はどう見てもご近所同士の世間話だ。招き入れた意図を聞くのもなんとなくためらわれるから、ここは黙って話を聞くしかない。時間はたたき売りするほどある。こうなりゃもう、なんでも来いだ、――弁償の金額を除いては。