その八 出会い・気づき

① 転勤

平成七年四月、職場の異動がありました。彼と同じ年齢でしたが、彼より先に末端の出先の課長職として転勤辞令です。

その前に内示の時、「今の自分ではとても課長職は務まらない。彼より先に昇進することはできない」と辞退しました。人事部署の責任者の方は、私のことも彼のこともよく知る方でした。

その頃、彼は職場には、急性膵炎、亜急性膵炎、急性肝炎などの病名を告げ、入退院を繰り返していました。私自身心を騙しながら、元夫に協力して、診断書を医師に書いてもらいました。いわゆる「イネイブラー(支え手)(注※)」として、関与していったのです。

(注※ 彼から頼まれて、私が主治医に診断書をお願いした時に、確認のために私が聞くと、主治医は、「本人が酒は飲んでいないと言えば、数値的にはアルコール性であろうと推定できても断定できない。まして、診断書を書く時に、アルコール依存症という病名は支障が生じることは推定できるから書くことはしないと言いました」)

人事部署の責任者の方は、「このままあなたが、異動を受けないと二人ともダメになる。頑張りなさい」と温かい言葉でした。その上、彼のことも私のことも知っているF所属長の下に置いてくれました。

その時々に守ってくださる方がいます。今振り返ると不思議でなりません。

② カウンセリング

異動して一段落した頃、夏の初めを思わせる暑い日の朝でした。F所属長から「ご主人の調子はどうですか?」と聞かれました。

F所属長は以前から彼のことを知っている方です。体調が悪いことだけは話していましたが、お酒のことは一切話してはいませんでした。

でも、部署は違っても同じ組織です。お酒を飲んでいること、休みがちであることは、当然知っていたでしょう。

私は「もう諦めています。もうダメなんです。心も病んでいて前を見て生きようとしないんです。私もクタクタです。どちらかが死ぬしかないんじゃないか、楽になるには……」と半ば自嘲的に言っていました(この時も、お酒を飲むとは一切話しません)。