【前回の記事を読む】汗すら出ない。朦朧としながら親方に早退を申し出るも、震えが止まらない…家に帰るため、震える手でハンドルを操作して…

1.大学院を辞めるに至った経緯。

しかし、我々が誤解するのは、例えば、人生の第一歩である学校で、毎年、四月から同じくらいの生徒が集まって、各学年、同じカリキュラムで、同じ時期に定期テスト、イベントが繰り返されるということが、当然だと刷り込まれるからではなかろうか。

しかし、あそこは、大本は国家権力が管理している、人工的、不自然な空間に過ぎない。それでも十年もすれば生徒数も生徒の質もはっきり変化するし、型通りに文部省のマニュアル通りに、同じことをしていれば、例えば、世間そのものであるやんちゃ集団が、ひと暴れして、教室を崩壊させるかもしれないのである。

私が熊沢建設に入って、世の中の実態を始めて垣間見て衝撃を受け、熊沢社長周辺の特異な事情だと思い込んでいたのも、それまでの26年間、平穏に過ごせたのが、むしろ特異な事情だということに気づかなかったからだった。

先ず、私が幼年期から大学生になるころは幸運にも、日本の高度経済成長期と重なった、今から見ると信じられないくらい安定した時代であったし、さらに私の親類の主だった人々の職業は、先ず家の父を初め、母の兄弟二人、祖父は、2011年原発事故前に無事、退職金、年金を手に入れた東京電力社員で、後は、八割方、公務員、警察官、消防士、教師であった。

つまり国家、地方自治体、巨大資本が、取り仕切っている安定的な領域の中で、お互いの本来の欲望を隠し、サザエさん的日常を送っていれば、それで済んだ幸運な人々だった。

だがいかに平穏に見えても、それが本来の人間の実態とかけ離れた不自然、人工的な空間に過ぎないことは否定できず、今、思えば、各家庭に一人は確実に神経症的な人物がいたし、私が二度、鬱病と診断されたように、「本物の精神病患者」も何人かいて、私が知っている60数年の親族の歴史で、少なくとも三人、自殺した。

佐藤優氏が、酒を飲むと赤ちゃんになる外交官とか、普通の会社にはそうは見られない、変わった官僚の例を挙げている。

しかし私が佐藤氏の本を読むまで、そうした人の例を知らなかったように、多くの人は、そういう同僚、上司に会ったことはないだろう。なぜか。

簡単な話で、普通の人は、もしなりたくとも衆目の中、「赤ちゃん」になることはどれだけ致命的な行為か重々知っているからである。

では何で件の外交官は赤ちゃんになれるか。それは彼が権力に近いからである。実際に、彼のその習癖は、佐藤氏が暴露するまで、特に公にならず、彼が辞任に追いやられたことも降格させられたこともないように、国家権力という強大な権力の頂点に近づくにつれ、そうしたことも免除されるからである。