「いえ、だけど、いただいた手紙にはびっくりしました」
「……」
「でも私、前から本川さんのこと知っていたから」
「えっ、僕のこと、知ってたの!?」
「関沢さんがよく話していたから。凄く変わった先輩がいるって」
「関沢が何言ったのか知らないけど、僕は、変わってなんかいないよ」
「でも、貰った手紙だって、変わっていましたよ」
「そうかな、変わっているかな……」
手紙を出してからずっと考え続けてきた予定の台詞を、恭平は全て忘れてしまっていた。忘れ
てしまった台詞を思い出そうともせず、二人はコートの襟を立て、師走の新宿御苑を歩き回った。歩きながら恭平は、一方的に喋りまくっていた。
その内容と言えば、映画や音楽、ファッションなど、およそ女子大生の関心事は一切なく、聞きかじりの退屈なサロン哲学的人生論の断片ばかりだった。
それでも淳子は相槌を打ち、時には愉しげに笑いながら聴いてくれた。
そんな表情を盗み見ながら、恭平は一人悦に入っていた。
(不思議だな。二人きりで話をするのは初めてなのに、いつもの俺みたいにハニカミはもちろん、気取りや気負いが殆ど無い……)
急速に淳子に惹かれていく自分に気づき、恭平は満足していた。
そもそも恭平には、好きな女性の明確な概念やイメージは無く、強いて言葉にすれば、「聴き上手で、話し上手な女性」だろうか。
しかし、これにしたところで、話好きな恭平の願望の一面に過ぎず、特に具体的な女性像を持ってはいなかった。