僕は、あなたに懸けてみる。

今週の土曜日、午後三時。

新宿紀伊國屋一階のエスカレーター横。

あなたとの再会に胸をときめかせて、僕は立っている。

あなたも、僕に懸けてみないか。

2

約束の時間を十分過ぎた。恭平は後悔し始めていた。

(一度しか会っていないのに、手紙一本で返事も聴かず誘い出すなんて、強引過ぎたかも知れない。せめて時間の都合くらい、訊いておけば良かった)

気を静めようと、大きく深呼吸して胸を膨らませた時、高野フルーツパーラーの前を駆けて来る池田淳子の姿が見えた。

(やった! 来た!)

吸い込んだ息を慌てて吐き出し、動物園の熊みたいに恭平は訳もなくその場を徘徊した。

淳子は中村屋の角の信号で止まり、荒く肩で息をしながらこちらを眺め、恭平の姿を探しているが、まだ気づかない。

歩み寄るべきだろうか、さり気なく待つべきだろうか、躊躇している間に信号は青に変わる。

淳子は勢いよくダッシュして横断歩道を駆け抜け、恭平を無視して通り過ぎる。

呆気にとられた恭平は、首だけを回して目で追いかける。立ち止まった淳子は、辺りを見回し腕時計を見る。その表情が、今にも泣き出しそうに曇る。

恭平は一度柱の陰に隠れ、目を大きく見開き口角を上げて笑顔をつくり、淳子に向かってゆっくりと歩き出した。

「こんにちは。本川恭平です。今日は無理を言って、ゴメンなさい」

伸びた背筋。余裕のある表情。張りのある声。簡潔な挨拶。会心の出来だった。

翳っていた淳子の表情に光が差し、笑みが生まれる。

「ゴメンなさい。遅れてしまって、授業があったんです」

「いや、僕の方こそ、勝手なことを言って、本当にゴメンなさい。もう諦めようかと思っていたけど、来てくれて、ありがとう」