【前回の記事を読む】鎖国時代の長崎の驚くべき真実!? 出島記念館にある「くんち」という祭りの絵に描かれている光景とは…

三、向付

会社の冷蔵庫を開けると、卵とバターのみ。戸棚にはパックのご飯が幾つかあった。

私のカバンには、母から頼まれた醤油と鰹節だけ。

ええい仕方がないと、私はフライパンにバターを落とし、極々弱火のまま、卵を割り入れた。

低温とバターで時間をかけて作る目玉焼きは、白身と黄身が綺麗に分離する。

焼き上がる頃を見計らい、パックご飯をレンジで温める。丼に熱々のご飯を入れ、鰹節を散らし、目玉焼きを乗せ、醤油をひとかけ。

その上に又ご飯、鰹節、目玉焼き、醤油。要は目玉焼きの重ね丼だ。料理ともいえない、お粗末な代物だが、恐る恐る皆に出すと、目を細め舌を鳴らし、大層喜んでくれた。

残業のメンバーには、秋田出身の口数の少ない男がいた。

どうやら、東北訛りを気にして、無口だった様だが、その彼が、「お代わりありませんか」

とはにかみながら言った。あれ程嬉しかったことはなかった。

食事を済ませると、雰囲気が和み、仕事も捗る様になり、秋田の彼も、少しずつ皆と喋る様になった。確かな絆が生まれた気がしたし、実際その後、このメンバーで大きな受注を受けたこともあった。

SNSの良さは、もう耳順に近い私でも、それなりには分かるつもりだ。スピード。利便性。気軽さ。

だがしかし、簡単に手に入るものは、直ぐに失われる気がしてならない。オールド・ファッションドかもしれない。

だが私は、直接会って、相手の目を見て、時間をかけて率直に話し合う、そちらを好む。