第十四章 喪失

母の葬儀は、小さな式場で行われた。

親族と、母の友人数名、デイサービスの職員。30人ほどの参列者だった。私は喪主として、挨拶をした。

「本日は、母・杉山悦子の葬儀にお越しいただき、ありがとうございます」

声が震えた。でも、私は続けた。

「母は、穏やかで優しい人でした。いつも周りの人を気遣い、自分のことは後回しにする人でした」

参列者の顔を見回した。みんな、涙を浮かべていた。

「2年前に認知症と診断されてから、母は記憶を少しずつ失っていきました。自分が誰かわからなくなることもありました。でも、最後まで、母は母でした。優しくて、温かくて、私を愛してくれる母でした」

私は深呼吸をした。

「母は亡くなりましたが、私の中では生き続けています。母が教えてくれたこと、母と過ごした時間、母の笑顔。それらは、永遠に私の宝物です」

「母に代わって、皆様にお礼申し上げます。母を愛してくださり、ありがとうございました」

私は深く頭を下げた。

葬儀が終わり、参列者が帰った後、私は一人で式場に残った。

棺の中の母は、眠っているようだった。白い着物を着て、両手を胸の上で組んでいる。私は母の顔をじっと見つめた。

「お母さん、お疲れ様」

声が小さく響いた。

「いっぱい頑張ったね。認知症になっても、最後まで頑張ったね」

母の冷たい頬に、そっと触れた。

「私も頑張るから。お母さんがいなくても、ちゃんと生きていくから」

涙がこぼれた。

「でも、寂しいよ。すごく寂しい。お母さんに会いたいよ」

私は棺にしがみついて泣いた。子供のように、声を上げて泣いた。誰もいない式場で、私の泣き声だけが響いていた。

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母を火葬した。骨壺を抱えて帰宅したとき、家は静まり返っていた。母の部屋に骨壺を置き「しばらくはここで一緒に暮らそう」と伝えた。

 

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