最近は駅前に自動証明写真機が設置されている。そのせいで証明写真を撮りに来る客がずいぶんと減ってしまったが、それでもまだ写真館で証明写真を撮る客はいた。
証明写真は急に必要になることも多く、中には通勤前に写真を撮ってから会社に行きたいという人もいるはずだ。
そういう客のために朝から店を開けているのだ。24時間撮影可能な駅前の自動証明写真機に対抗するための作戦でもあった。
写真をプリントしている間、コーヒーをサービスして差をつけるのも亮介なりのアイデアだ。亮介は写真館で写真を撮ろうと考えてくれる客を大切にしたいと思っている。
こういう客は、やがて人生の各ステージでも写真館を利用してくれるだろう。そんな客に寄り添う写真館でありたいと考えているのだ。
亮介が自分用のコーヒーをカップに注いでソファーに戻ってきたとき、店のドアが開いて上村静香が入ってきた。
「まいどっ。今日も寒いね。私もコーヒーもらっていい?」
「うちは喫茶店じゃないんですけど」
静香は隣の上村楽器店の娘で、亮介の一つ年下の幼馴染だ。お互いが一人っ子で亮介は静香を妹のようにかわいがっていた。
「亮介はさ、毎回おんなじこと言うね。たまには変化をつけようとか思わないの? マンネリでつまんない」
「なんでおまえを楽しませなきゃいけないんだ」
「はいはい」
静香は、慣れた足取りでカウンターの奥に回り、カップにコーヒーを注ぐと、亮介の正面に腰を下ろした。
「やっぱ亮介のところのコーヒーはおいしいよ。写真館がつぶれても喫茶店でやっていける」
静香が亮介に対してずけずけとものを言うのはいつものことだった。
「そういうおまえさんのところはどうなんだよ」
「楽器屋も最近はやばいね。ギターなんてさ、最近店で買う人はほとんどいないよ。ネットとかで買っちゃうみたい。うちは旭町小学校向けのカスタネットやリコーダーで細々と食い繋いでおる」
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