「春になったら、花見をかねてお婆ちゃんのお墓まいりに行こうね……。だから、ちゃんと食べて体力つけなきゃだめだよ。それと、腕立・腹筋・スクワット。明日から頑張るんだぞ……」
「うん、わかったよ、急に行けなくなったら困るもんね」
「そうさ、当日キャンセルなんかしたら、お婆ちゃんから百万(円)のキャンセル請求が来るんだからね……」
「ハハハ、百万で足りないかもよ……」
こんな軽口で笑う母をいつまでも見ていたいと願う。
「冗談なんか分からないよ……」と、ベソをかいていたのはついこの間の事であるが、今日の母の笑顔は満点である。
二月二十三日(火)晴
長瀬さんからザボンをいただいた。愛媛に住む娘さんが送ってくれたものだそうだ。
母はひどく喜び、緩和マッサージが終わるやいなや、「ブンタン、ブンタン……」と、皮をむく私の手を急かした。
フコイダン薬を再開して四日。偶然か否かは分からぬけれど、やはり、いくぶん母は調子を取り戻してきたような気がする。
一時は食も声も極端に細り心配したが、今日はだいぶ違う。あれほど拒否していた母も、我が身の事なれば、観念して飲むしかないと納得したようだ。
(ザボンとブンタンは同じもの。“ブンタン”は本州全般でそう呼ばれているが、九州・四国では“ザボン”と言われる。)