【前回記事を読む】私をアジア系難民と疑う警察…「お前は、日本人と似てはいるが、日本人ではない」状況を理解する間もなく、手錠をかけられて……

第一章 エメラルドグリーンの国

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「いや、そういうわけにはいかんな。この子は、わたしの患者だ。酸素マスクもつけずに、危険地帯で倒れていたのだ。デスネヒトが、この子の体にどんな影響を及ぼしたか、保健省へ報告せねばならない。

検査もすんでいないのに、強引に連行するというのなら、君がこの子の代わりに危険地帯へ行って、人体実験してくれるかね。いいかね、検査結果を報告することは、リヒター大佐からも指示を受けておるんだ。君は、上官の命令に逆らうつもりか!」

ぺセロ医師は、ベルガー中尉の前に立ちはだかった。

「わかりました。ドクトル・ぺセロ。あなたを信用しないわけではありませんが、一応、国家保安警察本部へ確認させてもらいます」

ベルガーは鋭い目つきでぺセロを見ると、また顎で部下に命じる。部下は小さな丸い鏡のようなものを取り出して見つめていたが、すぐにベルガーに耳打ちする。

「今日のところは、これで引き上げましょう。しかし、これだけは忘れないでいただきたい。そのマヤタ人の小娘が、あなたにとっていかに有益な実験材料であっても、我々にとっては、エメラルド国を破滅に導く悪魔の手先でしかない。

検査結果が出次第、国家保安警察でそのマヤタ人の身柄を引き取りますので、まあせいぜい、逃げられないように見張っていていただきたいものですな。何しろマヤタ人は、油断も隙もない詐欺師の集まりですからな。もしものときは、あなたの首が飛びますぞ」

ベルガー中尉は薄笑いを浮かべると、「よく覚えておけ」とでも言いたげな軽蔑のこもった目でルリエとぺセロを睨みつけ、あわただしく病室を出ていった。

「ふん、保安警察を鼻にかけて、若造のくせに何という生意気な態度だ!」

ぺセロはいまいましそうに舌打ちしたが、ルリエの方を向いて、

「よりにもよって、マヤタ人の疑いをかけられるなんてな……」

大きな溜息をつく。

「これは厄介なことになったぞ。わたしは、今後のことを院長と相談してくる」