【前回の記事を読む】クワガタが海を渡ってはるか遠くの島へ…?――伊豆半島誕生の秘密を生物学から解き明かす。本州衝突説の矛盾とは
第二章 日本列島周辺の沈んだ大陸
二 伊豆諸島の沈んだ大陸
伊豆諸島のマムシとシモダマイマイ
伊豆半島の先端からおよそ一五〇キロメートル離れた八丈島にはマムシがいます。日本列島の対馬以外に生息するマムシはニホンマムシ一種のみで、八丈島のマムシも同じ種に含まれます。
伊豆諸島には八丈島以外に大島にもマムシがいて、伊豆諸島のマムシは体色が赤く「アカマムシ」と呼ばれます。
ニホンマムシは、朝鮮半島からユーラシア北部のマムシに近縁のものであり、八丈島や大島のマムシが南から来たとは考えられません。
シモダマイマイは、伊豆半島南部と伊豆諸島北部の大島から神津(こうづ)島までの島々に分布します。
シモダマイマイのミトコンドリアRNA解析では、伊豆半島南部と伊豆諸島北部のシモダマイマイが同じハプロタイプをもつ【1】ことから、それらの地域はかつてシモダマイマイがそこで進化した大きな島であったと考えられます。
すなわち、シモダマイマイの祖先は、かつて本州から伊豆半島と伊豆諸島北部に侵入しましたが、その地域が本州と隔離されて島となり、そこで現在の種が進化して、その後に伊豆半島が本州と陸続きになったと考えられます。
オカダトカゲがいた古伊豆半島
今から五〇年ほど前まで、多くの日本の生物学者は、伊豆諸島の昆虫相や陸貝相、爬虫類相の研究から、かつて本州から青ヶ島までをつなぐ巨大な「古伊豆半島」が存在し、それが順次水没して切り離されて現在の伊豆諸島の動物相の古い要素が形成された、と考えていました。
その根拠のひとつに、伊豆半島から伊豆諸島の青ヶ島まで分布するオカダトカゲという特徴種があげられます。
このトカゲは、ニホントカゲに似ていますが、胴体中央の体鱗の列の数がニホントカゲより少ないのが特徴で、ミトコンドリアDNAのデータによって両種は区別されます。
オカダトカゲとニホントカゲの地域ごとのDNAのデータから、今から約四〇万年前に伊豆半島と本州が陸続きになる前から、伊豆半島から伊豆諸島にオカダトカゲの祖先が分布していて独自に進化したと推定されています【2】。そして、ニホントカゲとオカダトカゲの起源は、今から五〇〇万年前に遡るとされています。
また、疋田【3】は、オカダトカゲの伊豆諸島における分布は、飛び石のように分布を広げたのでも、海流によって流されて分布したのでもなく、伊豆諸島地域にかつて南北に長い古伊豆半島があったことを想定する必要があると述べています。