【前回の記事を読む】最終氷期に大地が海に沈んだ!? かつてアジアやアメリカと地続きだった陸地と、現代の海面になるまでの地球の変動史を解説

第二章 日本列島周辺の沈んだ大陸

世界の島々の多くには、今から約八〇万年前の中期更新世という時代から現在にかけて、長鼻目(ちょうびもく)(ゾウ目)をはじめ、シカやカバ、イノシシ、ウシ、ネズミ、キツネ、オオカミなど多くの固有の哺乳類が生息していたことが知られています。

日本列島の小型哺乳類化石の研究【1】によると、中期更新世(七七万~一二万九〇〇〇年前)にはシントウトガリネズミ、ヒミズ、ミズラモグラ、アカネズミ、タヌキ、オコジョなど現存する哺乳類の半数ほどが日本列島に化石として出現していて、この時期にすでに日本列島の固有種になっていたと考えられています。

とくにヒメヒミズ属、ヒミズ属、ヤマネ属は、属レベルでも固有化していて、それらは約二五〇万年前以前の新第三紀鮮新世 (せんしんせい)からの生き残りとして本州域の哺乳類相の根幹をなすものであったとされています。

この章では、日本列島の現在の哺乳類相の起源について探るとともに、とくに今から四三万年前以降に沈んだ日本列島周辺の陸地の謎に迫ってみたいと思います。なお、哺乳類の和名については、世界哺乳類和名目録【2】に従います。

一 日本列島の哺乳類相の起源

ナウマンゾウの祖先はいつ日本列島に来たか

「ナウマンゾウ」という名前を聞いたことがあるかと思います。ナウマンゾウ(Palaeoloxodon naumanni)は、日本の北海道から九州にかけての地域で、今から約三五万年前から数万年前までの地層から化石としてたくさん発見されている、かつて日本列島にいた長鼻目です。

頭蓋骨の研究【3】によれば、ナウマンゾウは中国で同時代の地層から発見されているナマディクスゾウよりも古いアンティクウスゾウのあるタイプのものに近縁で、約三五万年前あるいはその少し前に日本に渡来したものが、日本列島が大陸から孤立したために、日本列島の中で進化したとされています。

日本の長鼻目化石の研究【4】では、本州域に今から約一二〇万年前に中国からマンモスの仲間のトロゴンテリーゾウが、六三万年前に南から東シナ海にあった陸地を経由してステゴドンの仲間のトウヨウゾウが、そして四三万年前に中国北部から朝鮮半島を経由してナウマンゾウの祖先が渡来したとされています。

このことから、日本列島がアジア大陸と約一二〇万年前と六三万年前、四三万年前に陸続きになっていたと考えられます。

なお、大陸からのこれら動物群の渡来は大量移入ではなく、陸橋が非常に短期間しか存在しないか、または不安定なものだったために、大陸のすべての動物群が日本列島に来られたわけではなく、渡来したものが限られていたと考えられています。

日本列島の本州域に現在生息する哺乳類の多くは、このように何度か日本列島と大陸が陸続きだった時期に、大陸から日本列島に渡来して隔離されて、固有化したもので構成されています。その渡来の最後が、ナウマンゾウの祖先が今から四三万年前に大陸から渡来した時期にあたると考えられます。