「ソレニシテモ、アノ二人メ‥‥」
骸骨は全身をギリギリと軋らせた。今度夜勤の時に手ひどく脅かしてやろうかと息巻いた。だがそれで迷惑を蒙るのは結局渋谷医師の方なのだと気がついた。
「先生ニ免ジテ、コノウッ」
そう呟くと、身体をカシャカシャ鳴らしながら、骨だらけの貧弱な拳骨をドアの方へ突き出した。何だか余り怒っている風にも見えなかった。
夕方ドライブから戻ると、渋谷医師は寿司折りを下げて二階のナースステーションに向かった。ちょうど六時になるところだった。
「ご苦労様、これ皆にお土産」
そう言って手渡された包みに看護師たちは歓声を上げ、伊藤医師も頬を綻ばせた。
「ちょうどラーメンでも頼もうかと思っていたところなんですよ、ご馳走になります」
そう言った伊藤医師に倣って看護師たちも声を揃えた。
「それはよかったね」
渋谷氏は空いている椅子を引き寄せた。
「積丹半島へ行って来たんだけど、車で大混雑していたねぇ」
「天気がよかったですからね、でも海はきれいだったでしょう」
伊藤医師が口をもぐもぐさせながらそんなことを言う。辺りには寿司の匂いが拡がっていた。
「うん、絵里子が喜んでねえ、よかったよ。でも蟹がいないと言ってちょっと機嫌が悪かったなあ」
「絵里ちゃん、蟹なんか好きなんですか?」
赤毛の看護師は目を丸くした。
「子供は小さな生き物に目がないからね」
渋谷医師は目を細めて茶を啜った。穏やかな一時だった。日曜の夜は少しずつ更けていった。休日出勤でクサっていた看護師たちも思わぬ土産で気分を直し、わいわいとさざめきながら箸を動かしていた。
一方渋谷医師は手のひらで湯呑みを玩び、なかなか席を立とうとしない。それは職員に馴々しくしない彼には珍しいことだった。伊藤医師がそのことに目敏く気づいた。
「院長、何かお話でも?」
「えっ、いや別に‥‥」
そう言われて渋谷医師はドギマギした。確かに彼は漠然とことばを探していた。そこに集まっている皆に告げなければならないことがあったのだ。
ところが伊藤医師に先を越されて身構えてしまった。何故かはよく解らないが、あのことはまだ報せるべきではないと考えてしまったのである。
次回更新は4月12日(日)、8時の予定です。
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知らず識らずのうちに骸骨のことを秘密にしていく方向を辿っていく院長
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