県庁の裏手にある弁護士事務所に着いた。 そこは大きな木造の住まいを改造した事務所だった。先客がいたので、奥の客間に通された。 縁側のガラス戸越しに手入れの行き届いた苔むした庭が見えた。庭木が少々歪んで見える。大正時代のガラスではないか。由緒ある家柄の家であることが窺い知れた。
ほどなくして弁護士が現れた。
「まあ、まあ、足を崩して下さい」
と、弁護士はニコニコしながら二人の緊張を解きほぐすかのように言った。
「野津さんから、昨夜電話で聞きました。松葉さんたいへんでしたね。松葉さん、少々頑張り過ぎましたね。うむ、急ぎ過ぎたかな」 弁護士は、松葉工業のことをご存じなのだろうか。松葉を昔から知っているかのように穏やかに問い掛けるように話し出した。
野津は、正座をしたまま両手を膝に置いて、睨み付けているかのように弁護士の顔を見ている。 野津の緊張が隣に座っている松葉にも伝わってくる。それもその筈だ。この弁護士先生は県の法曹界にあって大御所と呼ばれている方だった。
「松葉さん、俺がやって見せる、再建して見せると思っておられるかもしれませんが、無理はなされない方が良い、気負い過ぎてはいけませんよ。あとで苦しむより野津さんの言われるようにされた方が良いと私も思います。債権者の方々に丁寧に説明し、お願いされたら必ず過半数以上、いや殆どの会社が松葉さんを応援してくれます」
弁護士の言葉はやさしかったが、断定的で、そして半ば命令するかのような重々しい口調は松葉の返事を待ってはいなかった。 野津の再建に対する強い思い、そして弁護士の慈愛溢れる言葉に、帰りの車の中で、感謝の涙がとめどもなく松葉の頬を伝って流れ落ちた。
会社に帰った松葉は、専務の仙田と常務の竹之下を呼んで、野津とひむか銀行の顧問弁護士に会って来たことを話すと、仙田がホッとした顔をして松葉に向かって言った。
「社長、良い人に巡り合われましたね。良かったですね。その弁護士は、相当松葉工業のことをご存じですね。そうでなければ弁護士がそれほどまでに言われることはないでしょう。どうして松葉工業のことをご存じだったのでしょう?」
「どこで聞かれたのでしょうね。そう言えば、この前裁判所から依頼があったと言って公認会計士の方が調査に見えましたね」
「来られました。三日ほど帳面を見られたそうですが」
「どうして公認会計士の方が見えたのでしょうか」
「さぁ、債権者集会の前に債務額の確定のためでしょうか」
「もし、そうだったら税理士でも良かった筈だし、むしろ税理士の方が適任だったでしょう。しかし、公認会計士がやって来た。公認会計士でなくてはならなかったのにはその理由があった筈です。公認会計士は公明正大な経営がなされていたかの調査ではなかったでしょうか。会社の金の流失はなかったか、などですね」
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