【前回の記事を読む】今の日本人というのは、自分の言ったことに責任を取らない、取らないどころか感じることさえない。責任回避ばかりで…

第1章 債権者集会

債権者集会

野津は、松葉を急き立てるようにして立ち上がった。

〝エッ、弁護士のところに今から行くのですか、わが社の顧問弁護士と打合せして決めたのですけど……。もう、いいです、覚悟はできています。今更、計画の見直しは無理です、20%でも過半数の同意は得られないと言っていたわが社の顧問弁護士に、ひむか銀行から言われました、もっと免除率を上げます〟などととても言えない。

もう会社の方針は決まっています、と言って断りたかったが、しかしそれも言い出せなかった。野津の言葉に真剣さが溢れ、松葉工業の行く末を危惧しているのが松葉にひしひしと伝わってきたからだ。

ひむか銀行との取引は、この協調融資が初めてだった。

取引当初から迷惑を掛けているのにこの人は、どうしてこれほどまでに真剣なのだろう? 松葉工業を再建させてどうしようと考えているのだろうか。何か松葉の考えの及ばないところで何かを画策しようとしているのか。

しかし、野津の澄み切った目はそんな疑念を微塵も感じさせなかった。

この人は、真剣に松葉工業の再建を考えていてくれそうだ。

松葉工業の再生を願っている人がここにもいる、と思った瞬間、松葉の体に一筋の光明が射し込んで来たのを感じた。松葉工業の民亊再生申立の記事が、地元紙の1面のトップに出た時、悲嘆に暮れ、痛哭しながら「岬」に向かう松葉に向かって中学の恩師が言った、「捨てる神あれば、拾う神あり」と。

またまた現れた、拾う神様が! しかも、しかも銀行の中から……。

刀折れ矢尽き、折れた槍にすがりつき、立ち上がろうとしている松葉を、野津は馬上から手を差し伸べ、すくい上げ、そして鞭を入れた。

馬は一目散に走り出した。

松葉は、野津の背中にしがみつき確信した。よし、この人は再建を真剣に考えてくれている人だと。