張目は参加者全員を見つめて言い放った。

「積極果敢に攻めよ! 守りは負けの始まりなり!」

全員が追従して唱和する。

「積極果敢に攻めよ! 守りは負けの始まりなり!」

この会社に「できない」という言葉は存在しない。できないことは、できるまでやる。たとえ手の皮がむけようとも、血豆が潰れようとも、できるまでバットを振り続ける。そうやって鋼鉄のマインドを磨いていく。

これほど「マインド」という言葉を使う企業は他にない。

会議の最中、「誰が売上ナンバーワンを取るか?」各統括部長はヒリヒリしていた。誰もが心の中で叫ぶ。

(今年のナンバーワンは俺だ。俺が上に行く!)

売上を追い求めるその光景は、ギャンブルにハマった集団にそっくりだった。

〈6〉

本社での内定者アルバイトを終えた桐谷は、2001年4月、正式に株式会社ナイスホープに入社した。

配属先は東京・市ケ谷支店。初めての職場に胸を高鳴らせながら、オフィスの扉を開けた。

「桐谷です。本日からよろしくお願いします」

入社初日、支店長の田下に挨拶した。

「よろしくね。君の席、そこだから」

聞き返したくなるほど、小さな声だった。

支店内には、支店長の席と他に4つのデスクがあるだけの狭いオフィス。社員は田下と桐谷の2人だけ。他にはアルバイトが2人という布陣だ。

この会社の支店長というからには、さぞギラギラした人で、血気盛んな20代を想像していたが、田下はまったく違った。

異常に声が小さく、滑舌も悪い。体の線も細く、年齢は30歳を越えている。肌は真っ白で、眉毛は八の字で常に何かに困っていそうな顔だ。

これが桐谷にとって、人生初の上司になった。

スパルタで、ガツガツした男性を想像していたので、桐谷は少し拍子抜けしながらも新卒としての第一歩を踏み出した。

次回更新は3月30日(月)、8時の予定です。

 

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