【前回の記事を読む】「君はどこの大学出身?」なんて会話は無意味だった。この会社では、むしろ「中卒」のほうが箔がつく。その理由は
第一章 カリスマの降臨
〈4〉
桐谷はナイスホープのことを知れば知るほど、凄まじい勢いで成功をつかみかけているベンチャー企業だと確信した。そして、一刻も早く働きたいと思った。
そこで、大学4年の後半、内定者アルバイトとしてナイスホープの本社で働くことにした。翌年4月、新入社員として入社する前に、もっとナイスホープのことを知りたかったのだ。
〈5〉
桐谷が内定者アルバイトとして本社に足を踏み入れたその日、社内はすでに戦場のような荒々しい空気に包まれていた。
朝一番から、専務・山上慎一(やまがみしんいち)の怒号がフロア中に響き渡る。
「飛び込み営業1000件だ! 行けーっ!」「できると思えばできる! すべてはマインド次第だ!」「イケイケドンドンで営業しまくれ!」
山上はナイスホープのナンバー2で、張目健剛と共に会社を興した創業メンバーである。典型的なお祭り男で、社内では「太鼓叩き」と呼ばれる士気鼓舞役だ。派手なスーツに大ぶりの腕時計、額にうっすら汗を滲ませながら大声で叫ぶその姿は、さながら戦国時代の武将である。
その隣で目を光らせているのが、ナンバー3の常務・崎野宏文(さきのひろふみ)だ。彼もまた創業メンバーであり、山上とは対照的な「知」の存在。戦略と数字を冷徹に操る会社の頭脳である。
「おい、お前。1000件飛び込み営業して、アポが50件取れて、実際の商談は40件、契約が5件……。今月はあと5件新規契約が足りねーな。どうすんだ? 飛び込み営業を2000件に増やすか?」
崎野が淡々と社員を詰めている。部下を追い詰めるその風貌は、まるですべてを丸のみしそうな蛇である。
トップに君臨する社長の張目健剛、売上の音頭を取る専務の山上慎一、統率が取れているか睨みを利かす常務の崎野宏文。ナイスホープは、この圧倒的な三本柱によって支えられていた。
そして、この創業メンバーの下に、事業本部本部長の北井毅(きたいつよし)が存在し、全国エリアの陣頭指揮を執る。北井は、宣言したことは絶対にやる男だ。その功績が認められ、高卒ながら30歳で事業本部長に抜擢された。
さらに、北井の下に全国各エリアの責任者である統括部長が存在し、売上を拡大する鋼鉄のピラミッドが完成していた。
年が明け、2001年1月。新春営業会議。
出席者は、社長の張目、専務の山上、常務の崎野、事業本部長の北井、そして全国各エリアの統括部長たち。誰一人、気を抜いた顔などしていない。まるで、これから開戦するかのように会議室は殺気立っている。
「いいか。2年で300支店まで増やすぞ」
張目が静かに、だが力強く口を開いた。現在の150支店を2年で倍にするという、常識では到底考えられない数字だ。とてつもない数字だが、この男が言うとなんでも実現できそうだ。
そして張目は続けた。
「3年後、2004年、ナイスホープは東証一部上場を果たす。いいな」
できるかどうかなんて聞いていない。やる、一択だ。
参加者全員が会議室が割れんばかりの声で「はい!」と答えた。
会議はこのカリスマの声に従う儀式であり、懸念を口にする場ではない。