獰猛な動物に睨まれた小動物のように、僕の身体は固まってしまった。

今、どんな表情をしているのだろうか。引きつってしまっているかもしれない。

そして、僕は自分の終わりを悟った。

 

「野上……優……。あんた、野上優でしょ」

 

「……はい」

 

否定のしようがないし、したってなにも始まらない。

 

「なにしに来たの?」

 

遥香の母親は、僕を強烈に睨みつける。

 

「あの、三年前は、本当に申し訳ございませんでした。遥香さんに謝りたくて……それで……来ました」

 

 

「……」

 

 

遥香の母親はずっと黙っている。

ただこちらを睨みつけて、じっと黙っている。

この時間がどれだけ続くのだろう。

僕にはもうそれが何時間も経過していることのように感じられた。

 

「あなた、自分がなにしたかわかってるの?」

 

「はい。だから謝りに来ました。僕がしてしまったことを、遥香さんに一番に謝りたくて―」

 

「帰ってください」

 

「あ、えっと―」

 

 

「帰れって言ってるでしょ!!」

 

 

母親の怒鳴り声は相当なものだった。

さっきまで閑静だったからこそ、その大きさは凄まじく感じる。

 

「うちはもう顔なんか見たくないんです! とっとと帰って!」

 

強くバタンと扉が閉められる。

恐怖だろうか、僕はまったく動けなかった。

遥香はもう僕に会いたくないのだろうか。

母親が会いたくないのはその通りだと思うが、遥香は。

もし彼女が僕にもう会いたくないと言うのなら、僕はもうここには来ない。

遥香のために、忘れられる覚悟もできている。

でも、もし少しでも遥香が会いたい、会ってもいいと思ってくれるなら―。

僕は買ってきた最中を玄関のドアフックにかける。そして、中に手紙を書いて入れた。

遥香に対して申し訳ないという気持ちと、会って謝りたいという旨、そして僕の連絡先を書いた。

効果があるかわからないが、やらないよりマシだと思った。冷静になればわかる。

僕にはもう、失うものはないのだ。

また暗く沈んだ気持ちで電車に揺られながら、東京を目指した。

次回更新は4月14日(火)、11時の予定です。

 

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