第三章 憂愁
一.四月十三日(土)
古城公園に行った翌週の週末、私は家のそばを流れる一級河川の土手に上がった。
公園への四キロの道のりを少し歩いただけで足が痛くなったことを私は重く捉え、少しは運動せねばと思い、一念発起してウォーキングを始めたのだ。
公園からの帰り道は、いったい、何度休憩したことか。歩道のガードレールに腰かけて、靴を脱ぎ、足の裏や足首を何度もさすって、やっとの思いで家に帰ってきた。あんなことはもう懲り懲りだと思った。
お隣さんに聞くと、堤防の歩道を歩くのが、最も安全で風景も良いということだった。
(さあ、今日はまず十分間歩いてみよう)
よく晴れた空の下、ゆっくり歩き出すと、後ろから来た同年配の女性が、こんにちはと声をかけ、さっと追い越していった。しかも、みるみるうちに私との距離が開いていった。何と軽やかな足取りだろう。彼女に比べ、私の足取りの重いこと、重いこと。
(あーあ、情けなや……)
堤防は高く、かなり遠くまで見渡せて、気持ちがよかった。白く雪をいただく、遠くのアルプスのきれいな山並みも一望できた。
私が周囲を見渡しながら、さらに歩を進めていくと、前方の土手の下のテトラポッドに、誰かが座っているのに気がついた。
「おーい、大村さんじゃないですか」
その男は驚いてこちらを振り向き、手を振った。やはり彼だった。
「いやー、今度は私があなたを見つけましたよ」
彼はゆっくりと土手を上ってきた。
「こんにちは。中山さん、どうしてここがわかったのですか」
「いえいえ、ただの偶然ですよ。今日がウォーキング一日目なのです」
「ああ、ウォーキングだったのですか」
「大村さんは」
「はあ、私はたまにここに来て、ぼけーっと景色を見ているのです」
そして、彼は私の斜め後ろを指さした。
「私の家はあそこです。あの大きなマンションの五階に住んでいるのです。それから、中山さんの家はあの辺り。本当に一キロもないような距離ですよ」
私たちは土手を下りて、草の上に並んで腰かけた。私は心の内で苦笑しながら、ウォーキングはまた明日からにしようと思った。
「はあー」
彼は大きなため息をついた。
「私はよく昔の出来事を思い出しては、こうやってため息をつきます。フラッシュバックのようなものですかね。恥を感じて穴に入りたい気持ちに襲われたり、生活そのものが嫌になったり、ということがよくあります」
彼は膝を抱えて座り、俯いて足元の草をちぎっていた。
「大村さん、先日来あなたを見ていると、あなたはきちんとした社会生活を送られているようだし、どうしてそんなにお悩みになることがあるのですか。いや、悩むという言葉が合っているのかどうかはわかりませんが」
彼は顔を上げ、向こうの川の流れの方に目を向けた。とても大きな川で対岸は遠かった。
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