【前回の記事を読む】「話し相手を探していた」運転席の男から突然の告白「あなたに聞いていただけたら……」

第二章 邂逅

三.四月四日(木)

「中山さんが精神科や心療内科のお医者さんでないことは承知していますし、私の精神状態を診てもらおうということではもちろんありません。まあ、私は自分で自分の治療はできると思います。今の自分の姿はすべて自分の選択の結果で、周りの誰かや社会のせいだなんて、これっぽっちも思っていませんから」

彼はようやく笑顔になって、

「私は、とにかく自分より頭の良い人に聞いてもらって、できればはっきりガツンとやっていただけると嬉しいのです。但し、私がいつ、自分の腹の底をさらけ出せるようになるのかは、定かではないのですが」

と言った。

彼が言いたかったのは、私に医師として話を聞いてもらうことではなく、話し相手になってほしいということなのだろう。そして、私を相手に話すことで、彼は自分を振り返り、考えをまとめ、自分をもっと知りたいということなのだろうと思った。

私は地方暮らしを始めはしたが、ただゆったりとした老後が送られればと考えていただけだった。この日は思い付きで家を飛び出したが、それは、ただ少しばかりの変化が欲しかっただけだったのだ。

だから私は、喜んで彼の話し相手になろうじゃないか、もし彼が私の生活の平安を乱す存在であったら……そのときはそのときでまた考えればよいではないか、と考えた。

きっぱりとして意志が強い。それが彼の本来の姿なのではないか。彼の話を聞き、私がそれに応じていくことは、お互いに有意義なものになるに違いない。このとき私はそう信じてみることにした。

はっきりガツンとか。歯に衣着せぬということであれば、私は適任だろう。もちろん心の専門家ではないので、言うことが的確かどうかは別として、私はそれが違うと思えばはっきりと言う人間で通してきた。

もっともこれまでも、私のそういった姿勢が職場での軋轢(あつれき)を生み、病院の権威者からは煙たがられたものだ。

いずれにせよ、彼と過ごすことで、私も良いときを送れそうな気がした。

その後、私たちはお互いの電話番号を教え合った。そして、約束の時間に遅れそうだと、彼は私を古城公園の駐車場に残して、急いで去っていった。