【前回の記事を読む】軟弱地盤のせいで城の工事が難航し、自刃した男…その娘は父親の無念を晴らすべく人柱に立った…!?
第一章 プロローグ
あくまでも言い伝えであるから、人口(じんこう)に膾炙(かいしゃ)し時が経つにつれて勝手な想像や創作が入り込み、無責任に話に尾ひれがついていくものなのだろうが、人柱という重い事実に後世の美化やつじつま合わせが入り込み、説が様々発生するのだろうと雄之助は思った。
酒席を辞し、少しふらっとしながら雄之助は美代が床を調えている部屋に入った。
「お
と、赤い顔の雄之助が戯(たわむ)れて美代の顔を覗き込むと、美代はきょとんとして、何のことでございますかと訝(いぶか)りながら、
「私は、
と、可愛い声で笑った。
こんなときの美代の仕草は実に愛らしいと雄之助は率直に思う。美代の雄之助に対する好意は分かり過ぎるほど分かっているが、雄之助とて、婿候補時代から仲よしで、成長して女らしくなった美代に対する愛(いと)しさは日毎に増幅している。雄之助は恥じらう美代の唇を吸った。
明日の法要の件も詳しく美代に話した。右側を薄く削られた立待(たちまち)月の青く冴えた光が二人の部屋を照らしていた。
翌朝、雄之助は朝餉(あさげ)を済ませると、いつものように美代の介助で裃 (かみしも) 半袴(はんばかま)に着替え髷(まげ)も整えてもらった。治助の待つ玄関の式台に立つと、今日登城のない養父が庭から雄之助に軽く声を掛けた。
「弁天様を、よう拝んでまいれ」
そうさせて頂きますと、雄之助は正体して頭を下げた。
五ツ(午前九時頃)に御用所に顔を出し、五ツ半過ぎ(午前十時頃)に天守台東側の石垣下にある船着き場の方向に向かうと、その手前にある冠木門(かぶきもん)で福壽院の住持が別の僧侶二人を伴って雄之助を待っていた。
一人の僧侶が御台所で受け取った供物などを手に抱えている。皆、法衣に身を包み、福壽院の住持は立帽子(たてもうす)を被っている。水主(かこ)が二人片膝をついて待っていたが、船着き場には小舟が二艘係留してあり、二人ずつに分かれて乗り込んだ。