【前回の記事を読む】火葬場で知らないおじさんと将棋を指した。一進一退で、駒の心を知っているコウは負けるはずがなかったが、おじさんが笑顔で…

小さな物語

【子どもの頃2】大好きな母

雪の日は、かあちゃんと手をつないで、約一時間をかけて保育園まで歩いていった。寒さなんて感じなかった。大好きなかあちゃんと手をつないで歩いたからだ。

かあちゃんは、幼い子どもたち四人を育てるために働いた。冬になると決まって、喘息のような咳が出た。それでも、毎日、仕事へ向かった。

かあちゃんは、とうちゃんと出会う前の若い頃に、島原から長崎へ出てきた。原子爆弾が落ちてから、二週間ほど過ぎてからだった。

かあちゃんは冬になると、決まって激しい咳が出た。とても苦しそうだった。

子どもたち四人は、かあちゃんに育てられた。いつも笑顔で優しいかあちゃんだった。コウは、そんなかあちゃんが大好きだった。

かあちゃんには、一つだけ欠点があった。それは、料理だ。醤油が濃くて、すごくからかった。それでも、コウは、魚や煮付けものなど美味しそうに食べた。かあちゃんの笑顔を見たかったからだ。

コウは大人になった。かあちゃんは、年を取って白髪が増えた。腰も少し曲がった。やがて五人の孫を持った。

コウのかあちゃんは、子どもたちや孫の幸せを、いつも祈っていた。

かあちゃんは、夏の暑い八月の自分の誕生日の日に病に倒れた。病と闘いながら、少し寒くなりかけた秋の十一月に他界した。

良性だった首回りの腫れ物が、悪性の甲状腺がんになり、それが肺まで転移していた。

コウは、止めどなく泣いた。涙は、いつまでも尽きなかった。

コウは、毎日、仏壇の前で手を合わせている。

「お母さんありがとう」と、心の中で祈りながら。

どんなに苦しいことがあっても、どんなに悲しいことがあっても、いつも笑顔で子ども四人を心温かく育ててくれたお母さんの笑顔を思い出しながら。