沈む陽と沈む思考

携帯のバイブレーションが、ポケットの中で低く鳴り響く。何度目だろうか。もう数える気にもなれなかった。

銀行からの返済催促の電話。が、出られるはずがない。金の工面など、できるあてもないのだから。

工場の経営はすでに崖っぷちに立たされていた。

取引先への支払いは滞り、従業員への給料支払いも遅れている。資金繰りに奔走するも、状況は悪化する一方。銀行からの督促が日に日に厳しくなり、電話だけではなく、ついには銀行員が直に催促してくるようになっていた。

だいぶ遅い昼食を済ませ、猫の額ほどの庭でいつものように吉田が野良猫に餌をやっていた時、視線の先に足が見えた。

顔を上げると、銀行員の清川が吉田をじっと見下ろしていた。

「社長、野良猫に餌なんてやってる場合じゃないですよね?」

冷たく、乾いた声だった。そばには大量の吸い殻。その吸い殻に視線を向ける清川は呆れているが、吉田は何本吸ったのかも覚えていない。

ただ、時間を埋めるために煙草を吸い続けていた。結局、その場で話し合いとなったが、内容はいつもと変わらない。

「返済の目処(めど)は?」

「このままだと競売になる」

「どうにかしてもらわないと困る」

――どれも、今の吉田にはどうしようもない言葉ばかり。先に進まない会話が終わり、清川が去った後も、吉田はしばらくその場を動けずにいた。

猫たちはいつのまにかどこかへ消えていた。

野良猫のようにどこかへ行きたい、どこかに逃げ出したい。そう思いながら、いつもの公園へと足を向けた。

あまり人目につかず、奥まったところにあるこの公園は、時間が止まっているかのように静かだった。

現実から隔絶されているような気がして吉田には居心地がとてもよかった。いつものように誰もいない、いつもと同じ少し腐りかけたベンチ。

しかし、いつもの景色が今日は色褪せて見えた。腰を下ろすと、疲れがどっと押し寄せる。

体の奥に鉛のような重さを感じながら、ポケットから煙草を取り出し、震える指先でライターを擦る。カチ、カチ。三度目でようやく火がつき、煙がゆっくりと中空へ溶けていく。

息を吐くたび、白い煙と共に、何もかもが消えてしまえばいいのにと思う。

考えなくてはならないことは山ほどあるのに、答えにたどり着けない。

どうすればいい? どこで間違えた? 何か手はないのか?

しかし、答えはどこにもない。ただ、また携帯が震えるだけ。

ポケットの中で鳴り続ける携帯を無視し、もう一本煙草を口にくわえた。この先どうすれば……胃が焼けるように痛む。

寒さでかじかんだ指先を握りしめ、空を見上げ、吉田は小さく震えた。