「それが、だめなのです。外せませんの。二度ともとの姿には戻れないのです」
女はかぶりを振って、ひんやりと嗤(わら)った。鉄輪は頭に取り付いたまま外せない。未来永劫このまま。人を呪うとはこういうことだ。
「やっぱり丑(うし)の刻(こく)参りなのね。あなた、それをおやりになったの?」
小袖の娘は好奇心を抑えられない。
「ねっ、それどうやるの? 呪ったお相手はどうなりましたの?」
「いえ、わたくしはただ、宇治川に二十一日潔斎(けっさい)しただけ」
女は遠い目をした。
「鬼を呼んでしまったのですね。そのまま自らが鬼と同化し本懐を遂げようとなさった」
老婆が後を引き取った。
「あら、そういう方法もあったのね。ふうん」
娘はなにやら思案顔だ。試してみてもよかったかも、という顔だった。
ここは安達ケ原の一軒家。丑三つ時の夜の底に、女たちの情念が熾火(おきび)のように揺らめいている。
外は森閑として風の音さえない。野に蠢(うごめ)くものたちは、息を潜めて女たちの話に耳をそばだてている。
女は長い髪を五つに分けて結い上げていた。
蝋燭を三つ立てる鉄輪の鋭く尖った先には、流れ落ちた蝋が固まっていた。
「ねえ、それで、それで、どうなったの」
娘は幼子のように話の先をねだった。
「あんなに逢瀬を重ねたお方が、あっけなく心変わりなさるとは思いもよりませなんだ」
一つ息をついて、女は続けた。
「わたくしよりもほんの少し若いというだけの女のもとへ向かわれ、以来わたくしのもとへは、もう二度と通ってはいただけませんでした。それゆえ、あの潔斎の後、わたくしは鬼に変化(へんげ)しておりました。鬼に変化した姿で、大路を風に乗って駆け抜けていたのです。気が付いたらあの女の屋敷でした」