【前回の記事を読む】「絶対行ったらあかんで、誤爆されるか職質の嵐に遭うで」治安が最悪の大阪の繁華街では、何時流れ弾に当たるかわからない…

回想 ―希望と挫折―

営業職哀歌

同時期の大阪は無法地帯かと思えるほど、いわゆる保険契約のモラルリスクも横行しており、浪速営業所では新規加入のクラウンが加入した翌日に盗難に遭い保険金請求され、ゴルファー保険のホールインワン保険請求や、水商売の女性の携行品盗難で積立女性保険の保険金請求など日常茶飯事で、積立女性保険などは販売とほぼ同時に発売中止となってしまった。

営業の裕三も代理店から挙ってくる自動車保険の車両保険の加入申請のたびに社内の「引受申請書」なるものを挙げなければならず、悲鳴をあげていた。

営業である以上厳しいノルマの数字を挙げなければならない一方で、会社に引き受けてもらう嘆願のような申請書を書かねばならぬという、いわばジレンマだ。

これとリンクするように次の日以降しばしば、示談屋に待ち構えたような出社の出迎えをされるという朝の憂鬱が続く社会人初の試練であったが、給湯器の使い方やお茶は女性社員の専売特許であったため、身銭をきっての缶コーヒーの振舞で誠意を持って対応するうちにいろいろ独特な関西社会の闇を教わった。

よもや威圧団体の人間から社会勉強するとは思ってもいなかったがまさに窮すれば通ずである。

また酒席では「仕事の話はしんとき(するな)、身銭きって酒飲んどる時も仕事の話するほどサラリーもらってへんで、酒がまず~なる」と諭すように語ってくれたもので、けだし名言であると思ったものだが、オンの時は仕事に没頭せよという強いメッセージなのであろう。

営業の他の課と交流で飲み会に参加する機会があったが、仕事の話ばかり雄弁に話している営業二課長とは対照的であった。両課長の仕事ぶりは言わずもがなで、下の者からは上司の仕事ぶりは不思議と慧眼をもたずとも見抜くことができるものである。

二人の営業スタイルは相反するが、泥臭い営業スタイルの不◯さん流儀が裕三にはしっくりきた。大学出たての世間知らずの裕三には、支店とはいえ支店内には多くの部署があり新鮮だった。

「営業部」「経理部」「損害調査部」「庶務部」「査定部」「相談対策室」など多岐にわたった。「査定部」には社員以外の「アジャスター」と呼ばれる下請業者のものもいたようだった。

いずれの部署も営業数字にいつもピリピリ気が張っている営業部以外の部署は裕三には呑気にみえた。

社員にも多種多様な人間がいたが、とりわけ経理部長の寒川は異次元に呑気な男であった。初対面の裕三に「君は麻雀できるのか?」といきなり聞いてきた。

単刀直入に無遠慮に一方的に切り込む無礼な態度にカチンときて「学生時代は体育会で運動ばかりで麻雀はさっぱりです」と嘘をついた。「ふむ」と短く頷くと一顧だにしない態度を顔に描いて去ってしまった。