【前回の記事を読む】「空と海……空海(くうかい)か。」100万回も真言を唱えた彼は、“とある出来事”に心を動かされ…自らの名前を改名した

第二章 天部の将軍、帝釈天と合心した空海の歩み

「空海よ。そなたの中には、すでに我の御魂が入っている」帝釈天がいった。

「どういうことでしょうか」空海が尋ねた。

桓武天皇の手前、会話を控えていたが、思わず声を上げてしまった。

「それは天部の戦いと関係する」帝釈天の表情が一瞬、翳りを見せた。

「天部の戦いとは?」空海が重ねた。

「つまりはこうじゃ。天部の将軍の地位にあった我は、仲間である弁財天が三体の邪神に襲われたとき、弁財天を守るために邪神を追い払った。

そこで手加減を間違え、三種の神器を持つ三体の邪神を、三次元であるこの世に吹き飛ばしてしまったのじゃ。

結局、三体が持つ邪がこの世の人々に蔓延してしまった。

我の失敗こそ、この世に邪なるものを広めてしまった要因のひとつであるわけじゃ。

我は天部のしきたりに反し、この世に降り立ち、己の御魂をそなたの肉体と合心(がっしん)してともに歩むことにした。

我が天部のしきたりに反したことで、我の御魂と合心したそなたは天部の神々から攻撃を受けることになるやもしれぬ。

しかし、案ずることはない。これから弁財天が人間へ転生し、そなたに力を貸してくれるじゃろう。

娑羯羅(しゃかつら)龍王や善如(ぜんにょ)龍王をはじめ、多くの仏たちも我の味方じゃ。

そなたたちは、この世を正しき方向に導くため、力を尽くしなさい」

「人々の心の裡(うち)に宿る邪なるものを打ち払うために、何をなせばいいのでしょうか」

ふたたび桓武天皇がやわらかな口調で尋ねた。

神聖不可侵な立場にあり、絶対的な指導者であるにもかかわらず、その表情はやさしく穏やかで、その瞳は慈愛と好奇心の輝きを宿していた。