「洗浄機は黒沼が担当しているのです。ものを喋らない男です」
「そのようですね」
「黒沼は残業しないから、誰かが代わって運転すればいいのだけれど……」言葉の歯切れが悪い。
「誰が運転しても、マニュアル通りに運転してもあの洗浄機は壊れるのです。でも黒沼が運転すると壊れない、おかしいのです」
「そうなんですか」
渡辺が声を潜めた。
「黒沼が妙な仕掛けをしているって、前の係長の坂下さんは言っていました」
「妙な仕掛けって?」
「だから、他の人間に操作させないためにわざと故障させる仕掛けですよ。ネジ緩めたり
……」
「まさか! そんな……」
千葉さんも目を丸くしている。初めて聞く話なのだろう。
「いくら何でもそれはないでしょう……。確認とかしたのですか?」
「黒沼は喋りませんからね。不気味だし」
「では確認はしてないのですか?」
「確認はしてないけど、間違いないって坂下さんは言っていました」
「確かに言っていた、マジ」
同じ言葉で近藤が加勢すると渡辺は勢いづき、
「そろそろ決着つけないと……」と意味ありげなことを言った。
いきなり難問に直面してしまった。自分の担当部署で起こっていることは、悪意ある行為で警察事件のような内容なのだ。
無視して見ないことにしたい案件、新島はすでに及び腰になっている。決断できない気弱な凡人が取り組むにはこのテーマはいかにも重い。近藤が上体をグッと近づけ低い声で提案してくれた。
「いつでもオッケーです。ガツンとやるなら言ってください」
ガツンと何をやると言うのだろう、ヤンキー気質の抜けない近藤の言葉には殺気のような迫力があった。対処の仕方によっては黒沼良治という人間を犯罪者にしてしまう。軽はずみなことは避けたい、しかし何か手を打たなければ……。
次回更新は3月20日(金)、20時の予定です。
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