【前回の記事を読む】仕事が認められ、社外から「ヘッドハンティング」を受けた。私の答えを聞いた部長は、顔色を急変させて——
おごそかな挨拶
昼休み。初めて経験する工場の社員食堂は明るく活気に溢れている。お喋りの声、笑い声が聞こえてくると、新島はつい捜してしまう。夢で出会ったあの美しい人がどこかにいるのではないか? そっと感覚を研ぎ澄ましてみる。早朝の夢はそれほどリアルで心に残っていた。
明るい食堂は気に入ったが一緒に時を過ごす相手がいない。食事を終えると新島は後ろ髪を引かれる思いで社員食堂をあとにした。キャッチボールを楽しむ者、日陰で縁台将棋を楽しむ者、缶コーヒーを手にベンチでお喋りを楽しむ者、これが工場の昼の情景なのだ。
──良いなー──
生き生きと新鮮に見える。話し相手のいない新島は自然と自分の担当する職場に足が向いてしまう。工場内は省エネ対策で照明が落とされている。気になって洗浄機まで行くと、思った通りその傍らにあの男がいた。名は黒沼良治(三十歳)、ファイバー一係の洗浄機担当者だ。
黒沼はラジカセにつないだイヤホーンを耳から外し、中途半端な状態でこちらを見ている。ニュースか何か聞いていたのだろう。太陽の下の情景と対比すると黒沼のいるところは闇のように暗い。憩いの時間を邪魔したようだ。新島は申しわけない気持ちで声を掛けた。
「どうぞそのままで……ぶらぶらしているだけですから」
やはりこの人はここにいた。この人はいつも一人で薄暗いところにいる。
現場事務所のテーブルに着いた四人。新島が招集しての初めての会議なので、自腹でそれぞれにコーヒーを用意した。自腹といっても事務所にある自販機のコーヒー、紙コップのコーヒーだが挨拶代わりの意味もある。
前工程の班長、渡辺(三十五歳)。後工程の班長、近藤(四十一歳)。そして検査工程の班長、千葉さん(二十九歳)。この人は女性班長さんで、目元が可愛い。新島はそれぞれにコーヒーを勧め、それぞれに茶封筒を配った。
「大変だけれど、夏のボーナス査定お願いします」
近藤が内容を確認しながら訊いた。
「いつまでに?」
「急いでいるようなので、明日ではきついですか?」
「明日。了解しました」
近藤が余裕で了解し、渡辺も千葉さんも同意を示してくれた。
「急がせて申しわけありません……それから本題ですが」
新島は一息おいて、
「納期遅れ、減らしましょう」
皆で対策を考えようと提案したつもりだったが、思わぬ答えが返ってきた。
「あー洗浄機のことですね、すみません」
渡辺がいきなり謝った。渡辺は納期遅れの原因を洗浄機と決めてかかっているようだ。しかも謝っている。ここは話の腰を折らずに納期遅れがなぜ洗浄機なのか聞き出さなくてはならない。新島は目の前のペーパーに洗浄機のことを勉強する、と書きつけ渡辺の発言を待つ。
「俺が洗浄機を動かせばいいのだけど……すみません」
話が見えない。新島はさらに話を促す。