【前回記事を読む】文化祭で演奏することになった。「何弾くの?」「当ててみ?」ロックじゃないけどベースを入れた方が恰好つくからと言われ…

〈序章 202×年3月某日(土曜)昼過ぎ〉

〈高校3年生〉

天衣無縫の2年生も終わり、受験本番の3年生となって、恒例により部活も実質引退して、白川は色白に、深田は元の七三分けに、西尾は文字通り大物に、それぞれなり、受験生らしくなっていった。

この3人の関係で変化があったことは、練習から遠ざかると共に本来の色白に戻っていったため、身体つきも含めて大人っぽくなってきた白川のことを、深田と西尾が、ほぼ時を同じくしてまぶしい目で見るようになったことで、白川も初めのうちは、2人がドッキリでも仕掛けているのかと思ったが、そうでもないことに気づき、微妙な雰囲気が漂う3人であった。

それはさておき、春はあけぼのから、しけ単・しけ熟をアバンダンしないように暗記し、夏は夜に、代々木やお茶の水の夏期講習で習った教材に没頭し、秋は夕暮れになって、届いた模試の合否判定に一喜一憂(二憂?)し、冬はつとめて、降雪を見込んで早めに入試会場に行くなどした結果、3人はめでたく卒業できることとなった。

そして卒業式の日を迎えた。

入学式の日と違い去就は明確で、長い受験勉強のトンネルを抜けると、そこは雪国ならぬ春爛漫のキャンパスとなったのが半分くらいで、残る半分は、捲土重来でもう1年(ないしはそれ以上?)を過ごすことになる、という全体状況であった。

式辞を始めた校長は、普段の朝礼でも多少改まった場であっても、要点を絞って話してくれるので全校生徒に大人気だったが、今回はいつにもまして簡潔で、「生徒諸君、卒業おめでとう。これからも『足は大地に、目は大空に』。以上」だった。

話した内容はたったそれだけだったが、壇上から卒業生をぐるりとゆっくり見渡しながら、その一人一人に目でも話しかけたので、みんな深く頷いた。

式を終え、参加した在校生も含め、水泳部員が部室に集まった。

これからも先輩としてここに来られるとは思いながらも、現役最後ということでちょっぴりおセンに浸っている3人に、後輩たちが容赦なく質問する。「深田先輩、浪人するってホントすか?」