【前回記事を読む】「ただいま」「宏ちゃん、お帰り~」高校生になっても相変わらずの「ちゃんづけ」する母。しかも、部屋にも遠慮なく入ってくる。
〈序章 202×年3月某日(土曜)昼過ぎ〉
〈高校2年生〉
{文化祭(西尾泰治)}
秋に入ると、校内では恋愛の秋を楽しんでいる者がいれば、その恩恵にあずかれず学問の秋だと信じようとする者、あるいは、はなっから食欲の秋を満喫している者もいた。
それらの者たちを含めて、多くの者たちが文化祭の準備に忙しい。クラスでの参加もあれば、部活での参加もあり、特に文化系の部活は夏頃から準備していて相当に仕上がってきている。
部室で譜面を見ながら泰治がエレキベースを無音で練習していたら、白川が入ってきた。
「西尾君、文化祭で演奏するの?」
「おー、軽音部のやつに、ロックじゃないけどベースを入れた方が格好つくから手伝ってと言われた」
「何弾くの?」
「当ててみ?」
「うーん、ロックじゃないなら、はっぴいえんどやチューリップではないだろうし……、たくろう? 陽水? それとも、かぐや姫?」
「違う。なんと、荒井由実。そう、ひこうき雲」
「えーー、嬉しい!!」
白川が飛び上がらんばかりに……、いや、飛び上がって喜んだ。
下手の横好きながら泰治は暇つぶしも兼ねて、高校生になってもベースを弾き続けていた。
それというのも、「こんな機会は一生に一度」と姉さんに教えてもらって一念発起し、高校に入学が決まってすぐに、来年のお年玉も前借りしてチケットを手に入れて観に行ったデヴィッド・ボウイのコンサートが色々な意味で強烈だったからだ。