コンサート会場である新宿の東京厚生年金会館まで行って、会場に入ろうとしたときに、ふと隣で同じように入場しようとしている女性を見たら、なんと、『巨泉・前武ゲバゲバ90分!』ですごーく美人なのにボケの演技も絶妙な女優さんだった。

それこそ「アッと驚く為五郎」って感じで、「世の中には綺麗な人がいるもんだ。こんな有名人も聴きに来るんだ」と思い、一瞬、自分が何をしにそこにいるのか忘れるほどだったが、聴衆に紛れてしまった女優さんを見失い、ようやく我に返って自分の座席を探し、始まる前から興奮してざわざわしている超満員の中に身を置いた。

間もなく開演となった。

何度も何度もカセットテープで聴きこんだお馴染みのイントロが、おなかにまでドッシーン・ドッシーンと来る大音響で奏でられ、スポットライトを浴びたギンギラのボウイが目の前に現れて、あの独特の声でヒット曲を次々と歌い出した。

そんな体験もあってベース演奏を続けてきたが、「頼んだら断らない西尾君」というキャラが知られて、出演が決まった経緯がある。

さて、泰治が高校に入った頃から温めていた文化祭のイメージはというと、「体育館の大舞台でバンドのいぶし銀のベーシストとしてシケモク(ココアシガレット?)を咥え、長髪をなびかせながら、憂いを帯びた表情でディープ・パープル『スモーク・オン・ザ・ウォーター』をタッタッタァー・タタッタタァー♪のリズムに乗りながら演奏する。

その始まりを観客席で待ちに待っていたセーラー服姿の女子高生たちが、失神寸前の総立ちで発するキャーッという嬌声に包まれながらバンド全員でノリまくって、一体感の陶酔の渦に巻き込まれ……」というものであった。

しかし、夏はひたすら、失神寸前になるまで泳いで、寝るだけのために帰宅する毎日で、練習してる時間はほぼなかった自分のテクニックは認識していて、落ち着いて演奏ができるこの曲『ひこうき雲』は、いつも陸トレで口ずさんでいたこともあり、自分に合っているかもと思っていた。

そんなことに頭を巡らせながらも、曲練習を続けつつ、泰治は新しい夢想(妄想?)に耽っていた。