「小講堂で、この曲を演奏し出したら、柱の陰で瞼を閉じながら聞き入ってくれる一人の可憐な女子高生がいて、演奏が終わると出待ちしてくれていて、俺のところに駆け寄りながら、『とっても格好良かったですぅ! すてき! 私とお付き合いしてください♡』って言われ……」

すると、太平の眠りを覚ます蒸気船かのように、そんな泰治のことを、先ほどからチラ見していた白川から「何、ニタニタしてるの?」と突っ込みが入ったので、泰治は何事もなかったように憂いを帯びた表情に戻り、譜面を追い、練習に専念した。

そうした演奏練習を積み重ねて、文化祭当日を迎え、泰治は軽音の友人たちと満足いく演奏をすることができた。

念のため申し添えれば、近隣の女子高生は来なかった。彼女たちは、同じ時間帯に上映された自主製作映画に流れたようだった。

とても人気なので、泰治もその次の回を見てみたが、いくつかの短編ムービーで構成されていて、例えば、「ジャングルで迷子になったターザンの格好をした主人公が、苦労して何とか抜け出すと、そこは23区ぎりぎりの私鉄駅だった」り、「吉祥寺を出発した電車の座席で主人公が、今度は和服を着て正座をし、車窓を眺めながらお点前と、〇ざさの最中を味わっていた」り……、あの「がきデカ」のシュールな面を受け継いだ感じのものであった。

自分の思い描いてきた女子高生の観客を一網打尽にしたライバル企画についつい笑って見入ってしまう泰治であったが、部活のみんなが白川に誘われて演奏を聴きに来てくれ、陸トレの時のように『ひこうき雲』を一緒に歌ってくれたことを感謝した。有り難う。

 

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